リンツ”。 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

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40年以上に及ぶ音楽家としての筆者の活動と
その経験から得た感動や自らの価値観に基づき
広く芸術、エンターテイメント等に独自の論評を
加えて参ります。現在小説 愛のセレナーデと、
クロス小説 ミューズの声を随時掲載中です。
こちらもご覧頂ければ幸いです。

モーツァルトの作品に付いては
何百、何千、何万もの言葉を
幾ら駆使しても本来とても
その天分の技を語って
言い尽くせるものではない。
神の領域に入る程の覚悟が
なければ何を言っても
説得力は持ち得ない。しかし
語ろう。
神に選ばれし天才の成した
芸術的偉業、その端的な例の
一つ「リンツ」にまつわる
逸話をである。
交響曲第 36 番「リンツ」K .425
C-durは彼の後期を飾る
交響曲群の中においては決して
派手なインパクトを示している
作品と言う訳ではない。だが
この作品こそ実はモーツァルトの
後半生の才気あふれる創作活動の
スタートを切るにあって
その天才性を端的明瞭に指し示す
不滅の名作なのである。
しかも着想から全曲完成まで
僅か四日間だ言われているのだから
驚きである。1783年秋の事
である。この時モーツァルトは
妻コンスタンツェと共に故郷
ザルツブルクへ里帰りし、
ウィーンへの帰路途中、小都市
リンツへ立ち寄る。そこで
地元の貴族ホーエンシュタイン伯の
依頼を受け急遽この地で
コンサートを開く事となる。
その際、伯の所望に適う交響曲の
持ち合わせが無かった彼は
すぐさま新曲の作曲に着手、
コンサート開催一日前に完成を
みるのである。急ぎパート譜を
起こし泊お抱えのオーケストラ
とのリハーサルを経て、
先述の様に僅か四日間で完成
させた新曲を次の日には
見事に演奏し切るのである。
記録によれば11月4日がコンサート
当日、それに先立つ10月31日付け
で父レオポルドに送った手紙には
この様に記されている。
「伯の意にそう様、僕は今、
大急ぎで交響曲を作らなくて
なりません。何しろ手持ちの曲が
ないもので…。でも安心して
下さい。曲はもう出来ており
後は譜面に書き下ろす
だけですから…。」っと!。
そして完成したその交響曲こそ
「リンツ」なのである。
モーツァルトの楽才の最たるは
着想の段階から、時を経ずして
既に頭の中で楽曲を全て完成させ
書譜は残りの余力で対応出来た
と言う、まさに神業的手法が
意図も簡単に実行し得た事なのだ。
第一楽章、冒頭の長大な序奏から
主題の提示、典型的ソナタ形式を
丹念に練り上げたこの名作が
僅か四日間で作られたものとは
俄かには信じがたい程、
その楽想は完璧な骨格を成し、
流麗な古典的美質に彩られている。
作曲家W.A.モーツァルト!。
【神に選ばれし唯一の天才】が
繰り広げた奇跡の技。
それを無二の遺産として我々は
今まさに、享受している事の
悦びは他に例えようがない程、
素晴らしい体験なのだ。その事を
日々感じていたいものだ。
アインシュタインの言葉だったか?
【私は死する事に贖う様な
愚かな振る舞いはしないし、
ましてや恐怖を抱く事もない。
しかし唯一、死する事で
もう二度と再びモーツァルトを
聴けなく事だけは残念で
ならない。】言い得て妙である。
まさにその通りだ。
だから私も思う。命ある限り
イヤと言う程モーツァルトを
聴こうと…!。
(ルチアーナ筆。)

★私のリサイタルに関する情報は
H26.4/7付けのブログ記事にて
ご確認下さいます様
お願い申し上げます。