望郷のバラード。 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

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ヴァイオリニスト天満敦子氏のライフワーク的楽曲とされる孤高の名曲【望郷のバラード】東欧の国ルーマニアの深い静けさと、その底深い所に潜在する民族の声、大地への敬意愛情、そして数々の試練を経て尚、望郷へと誘なうかけ替えのない心、熱き想い。この止めどなく美しい静々たる名曲を天満氏はそのコンサートのプログラムに必ずや挿入される。天満氏によって奏でられるストラディバリウスから、その深い感動をひとたび得た者は心に熱き想いを抱かずには要られない。チャウシェスク政権の崩壊、ソビエトの消滅、戦後のいわゆる東西冷戦時代を経てルーマニアも又、多難な歴史の波に激しく翻弄された末に独裁の壁は跡形も無く崩れ去り今や民主化の壮大な流れを享受するに至った。だが、そうした急激な体制の変動は旧東欧圏において新たな民族紛争の悪しき流れを呼び、貧富の格差の拡大などはルーマニアにおいても決して例外とはなり得なかった。天満氏はそうした中、特に医療現場での劣悪化の象徴として薬害エイズの蔓延などを垣間見て大きな衝撃を受けたと言って居られる。そして母国日本も含めて特に小さな子供達の命を守る手立ては何かを、音楽家として、何をやるべきかを自問し、やはり自分にはヴァイオリンを弾く事しか無いと思われたとも言って居られる。忙しいコンサートツアーの束の間、天満氏は医療施設、学校、養護施設などを回りボランティア演奏をして居られのだが、そこでも天満氏は全く変わる事なく全力で自らの音楽の世界感を体現される。心を果てし無く癒すヴァイオリンの音色にヴァイオリンを初めて聴いた子供でも、微動だにせず聴きいってくれるその様を見るに付け天満氏は改めてヴァイオリニストである事の幸せを感じるのだそうだ。私の様な才能に恵まれた訳でもない人間も含め、でもやはり音楽・芸術に少しでも携わる者はこの天満氏の行動を範として演奏家として常にその技を磨き、人々の心に大きな感動とひと時の安らぎを与える為、たゆまぬ努力を傾注すべきであろう。頭が下がる。天満氏は演奏会の収益の一部や募金等による浄財を常々、社会的弱者の為寄付して居られる。名曲【望郷のバラード】と共に東欧の国ルーマニアとの深き縁を胸にヴァイオリニスト天満敦子氏は今日も又、熱き心に満ちた円熟の音色を奏でて居られる事だろう。私も又、いく度となくその演奏に接しているが世界レベルの素晴らしさと共にそこには常に深い情熱と共に暖かい温もりが存在している事をひしひしと感じる。世界的なヴァイオリニストにしてその人間性の素晴らしさを兼ね備えた天満敦子氏、クラシック音楽界の、我が国の誇りである。天満敦子氏、渾身の、魂の演奏で是非、【望郷のバラード】お聴き願いたい。切なる想いを込めて申し上げておく。
(ルチアーナ筆。)