白鳥の歌”出会い・そして修練の時2。 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

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40年以上に及ぶ音楽家としての筆者の活動と
その経験から得た感動や自らの価値観に基づき
広く芸術、エンターテイメント等に独自の論評を
加えて参ります。現在小説 愛のセレナーデと、
クロス小説 ミューズの声を随時掲載中です。
こちらもご覧頂ければ幸いです。

ものの5分もしない僅かな時間経過だろう。少女は洗いざらしの長めの髪を
そのままに妻が用意していたジャージ
を改めて身に付け、今度はかなりゆっくりとした歩調で再度ショートロビーへと姿を現した。因みに私達夫婦は日頃から常に芸術家然としている訳ではない。旅先でもましてや家ではむしろジャージ姿でいる事の方が多いくらいだ。妻もかなりの数のジャージを持っていて、その中の一つを今少女に提供している。「さっきはごめんなさい。
ちゃんと服、着て来たからもう、怒こんないで…。」少女は私達夫婦に軽く頭を下げて詫びた。「あら!そのジャージ姿、すごく可愛いじゃないの…。まあ~、こちらへどうぞ。」妻はショートロビーからとって還す様に少女を応接スペースへ案内した。「ムーンさん、あなたも一緒よ!」承知した。私も共に応接スペースへ舞い戻り妻共々この娘と対峙した。妻(まゆ美)「どう!頭痛いのもう治った?気持ち悪くもない?」少女「うん、もう平気、治った見たい。でもさ色々迷惑かけたみたいだよね!ごめんね。」妻「そう、
それじゃ良かった!。でも、う~ん貴女、それにしても無茶するわね。お酒どれだけ飲んだのかは知らないけれど私達が気付かなければ、昨日、あれから如何なっていたことか…。」妻はその後も少女に昨日から今日にかけてどういう経緯で今現在、少女自身がここの場所にいるのか、噛んで含めるように説明してやった。「貴女、それに未成年でしょう?お酒を飲むのは法律違反よ。分かってるでしょう!。」妻が追い討ちをかけた。「ええ~!それは違うよ~!」少女の返答に私達は一瞬戸惑った。「だって私もう二十歳だもん…。」妻「まあ~、そう、だけど貴女そうは見えないわね~。」少女「ええ!嘘!ほんとに…、若く見える?」
若く見えるも何も元々若いではないか!私は心の中でそう思いながらも
くだらぬチャチャを入れるのはやめ、
疑問を投げかけた。「だけれども君…、君の着ていたあの洋服、あれはどこかの学校の制服だろう?高校か何かの…。」少女「ああ~、あれね。あれはさ、一応卒業した学校の制服、今も着てんの…。今はさ!仕事用の制服って感じかな。そのまま、役立っちゃってて(笑)」訳が分からない。しかしこの少女が明らかに少しばかりではあるが年齢を詐称し決して社会的には褒められる様な事をしていないのだという事は分かる。気が滅入るばかりだ。「奥様、軽食のご用意出来ました。」芳子さんの声だ。「ありがとう御座います。」妻は返答の後、空かさず少女に「お腹空いたでしょう?今軽くだけれどお食事のご用意をしてもらったから、それをお食べなさい。そしてもう今日はお家に帰った方が良いはね…!。」妻は親切にも少女の為、既に芳子さんに食事の用意を頼んでいた。少女「お腹は空いた…。だけどさ!帰る家はないんだ。」妻「まあ~、それ…どう言う事!?。」少女「でも、心配いらない。行くとこはあるから…。」妻「そうなの?。」少女「う~ん!そう…。」こんな会話の果て、少女は案内されたダイニングキッチンで目一杯出されたものを美味しそうに食べ、ゲストルームへ戻り例の制服を改めて着込んで帰り支度を整えた。…っと言っても来た切り雀の手ぶら姿なのだが…。「じゃー色々、ごめんなさい。ありがとうね!私、帰る。あっ!お金は…!」この娘何を言っている。一応見送りに出た私達夫婦は唖然とした。部屋代つまり宿泊費と食事代を払うというのだ。冗談ではない。私達はそんな必要はないとたしなめ、村田さんにこの娘の車での送りを依頼した。雄三さんがそれを拒否する筈がない。「そうだ…ね。ムーンさん彼女の名前だけでも聞いておきましょう…。」妻はそう言うと車に既に乗り込んだ少女に窓越しにガラスをスライドさせフルネームを聞いておきたいと
尋ねた。「私の名前…?金城サヤ…。」少女はそう答えた。妻「サヤちゃんね。分かったわ…。」少女「あ~の~」妻「何?」少女「あのさ~おじさん歌、めっちゃ!上手いよね。それからおばさん!ピアノ超上手…!じゃーバイバイ!」嵐が過ぎ去った気分だった。(続く。)
ルチアーナ作