原題:隐入尘烟。日本の漢字で書くと「隠入塵煙」(一切の大切な物事は最終的に日常に埋もれて、時間の層の中に隠れてしまう)。この言葉通り、ちっぽけだけど幸せで美しい、土に生きる主人公たちの人生が心に染みた。


中国西北の貧しい農村。そこに生きるヨウティエ(马有铁)。親戚の紹介で障害のあるクイイン(曹贵英)と結婚する。麦を植え、家を建て、家畜を育てる、彼らの生活をドキュメンタリーのように描いた作品。

ストーリーは有るようでない。日常のトラブルとかはあるが、彼らはそれを全て受け入れる。
ヨウティエ夫婦の愛が心を打つ。互いを思い遣り、何も期待せず、求めない愛。二人とも本当に優しい。麦の収穫のときだけ喧嘩するが、それは隣の畑の人と比較したから。そう、彼らは比較しない。
村の人も出てくるが、彼らは基本的なコミュニケーションは取るがあまり親密な人はいない。その絶妙な距離感。
印象的なシーンがあった。ヨウティエが村人の井戸端会議を挨拶は交わすもののさらっと通り過ぎる。このシーンは2回くらい出てきたが、なぜか印象的だった。
村の人は彼らを利用したり、噂したりするが悪意でなにかを奪ったり嫌がらせはしない。文句を言いながらもちゃんと見返りを与える。本人は金に執着がない。未来のことも語らない。今、この時だけ。家すら自分たちで作ってしまう。だからといって孤立してるでもなく、麦の苗はツケで買い、できた麦は地主に買い取ってもらい現金を貰うという農村社会にしっかりと生きている。正に地に足のついた生活だ。

最後、体調不良だったクイインがあっさり川に落ちて死ぬ。そして村人が政府の補助金のために彼らが建てた家を破壊し(生活改善のため古い家を壊すと金が貰える)、ヨウティエはシティにある政府が建てた家に引っ越し、大地だけが残り映画は終わる。最後、彼は姿すら見せない。土に生き土に還る、「隠入塵煙」の言葉通りだと思った。

最近、生き方について考えている。生活環境が変わり、これまでの働き方、生き方が通用しなくなった。頑張っても上手くいかない。どう変えたらよいのかをずっと考えている。
この映画を見て、時間の流れの中における人の一生の小ささを感じた。彼らの人生は正にちっぽけだった。何かを作り上げてもそれが残るでもなく、子どももいないからすぐにその存在も忘れられるだろう。でも、彼らの短い結婚生活は確かに幸せだった。それでいいんだよな。言葉にするのは難しいが、彼らの人生を見て心が少し楽になった。

地味だけど、心に余韻を残す良い映画だった。