冬冬(トントン)の夏休み(原題:冬冬的假期)は侯孝賢が監督、原作・脚本は朱天文の映画である。「サイノフォア」というアンソロジー本で彼らの文章を読み、映画の存在を知った。


台北に住む冬冬と婷婷の兄妹。ある年、彼らの母が病気になり、父は看病で忙しく彼らはひと夏を田舎の祖父の家で過ごすことに。その日々を冬冬の目線から描いた作品。

80年初期生まれの自分にとって、とても懐かしい気持ちになる映画だった。駅の風景が映った瞬間、涙が出た。自分が生まれ育った町の駅そのものだ。またおじいさんの家も畳あり、木枠の窓が自分の祖父母の家と同じで40年前に戻ったようだった。夏休み、祖父母の家に行っても何もすることがなくて寝転んで漫画見たり川に行ったり……あまりに自分の記憶と同じで驚いた。景色がとても美しい。田んぼに川に、女性たちの緩めのワンピース。どこか違うけど、とても懐かしい。
ストーリーも、田舎の子どもたちとの友情もあるが大人の問題もある。知的に問題のある女性の妊娠、生活にだらしのない冬冬のおじさん、強盗傷害事件など。それらも冬冬の眼を通して、淡々と描かれていく。解決することもしないことも、ただただ淡々と。40代を過ぎて見ると、自分にはどうしようもないその苦しみが心に突き刺さる。

ただひと夏の思い出を描いているが、ノスタルジックで素晴らしい作品だった。「サイノフォア」も中国大陸以外の台湾、マレーシアなどの作家の作品があり、とても面白かった。また新しい世界が広がった。