全四巻、昭和46年発行。日本で言う中国四大奇書に含まれる。全100話。
我が町の図書館には完訳しかなかった。長くて読破するのに1ヶ月以上かかったが、訳が語り口調?軽妙で読みやすく頑張れた。
読後の感想は、人間の俗世の欲が書き尽くされてるな!であった。金、情欲、権力欲。気持ちいいほど欲に忠実な奴らの話である。

水滸伝の武松のエピソードを取り出して、それを発端にオリジナルの話が展開されていく。金持ちの実業家で女好きの西門慶が主人公で、彼の家にいる家族(正妻と妾が5人)、召使、遊び仲間、女の斡旋屋や色街の人々などが織り成す欲にまみれた日常?生活話である。
エグい性描写がてんこ盛りだが、文章が本当に軽妙で何とかサラッと読めた。金とそれに群がる老若男女、男女の情欲に嫉妬など内容はアクが強いが彼らの欲望はとても人間らしくて理解でき、また人生の教訓が至るところに散りばめられているので面白かった。古典として現代まで残るだけある。特に好きな教訓は「柔軟は立身の本、剛強は禍の種(中略)分を守っていれば安泰」その通りだ。
面白いと思ったのは、中国に限らず男性の欲と言えば金もそうだが天下をとる、宮廷でトップに立つとか視野が広いイメージがあった。しかし西門慶も含めて金梅瓶の欲は狭い世界の中だけだった。女が中心だからか?一応西門慶は公務員の仕事に就くが、公務でのしあがるよりは上の人に顔を売って金や商売に繋げるためであった。
女たちは家という狭い世界で生きている。善良な夫人もいる分、題名にもなった3人の悪女どもの性悪さが引き立たされる。どうでも良いことでギャーギャー喚き、災いを自ら引き起こす。女の嫌な面がまあ事細かに書かれている。そして彼女たちの金を目当てに色んな人間が家に出入りする。善悪とか関係なく人間の姿がそのまま書かれている。紅楼夢とも似ているが、こちらは金持ちとは言え平民の家なのでまあエグいし下世話。なのについ読んでしまうのは、書かれていることが時代も国も越えた人間の真の姿だからだろうな。
一応、最後は悪い奴らは早死にし善良な人々が生き残って話しは終る。が、それまでのやりたい放題が凄すぎて最後の教訓など頭に入らなかった。
戦争や政治の話はほとんどなく、生活中心の話なので中国の昔の屋敷の生活、色街の様子など風俗的な描写が多くて面白かった。水滸伝からの派生なので時代は宗だが、解説によると本が書かれた明・万暦年間の風俗が描かれているとのこと。

人に堂々と勧められる本ではないが、読んで損はないと思う。漫画もあるらしい。
中国の長編古典を5つ読みきった満足感はこの上ない。