会社のベランダに立って往来を眺めてたら、街路樹にとまったセミが元気よく鳴いていた。
空は青くて、ぽこぽことしたカタチの雲の白がくっきりと映えている。
この空のコントラスト。夏だ。
明け方に降っていた雨が止み、濡れた道路は陽が昇ると共にみるみる乾いて
俺は湿気に溺れそうになる。

セミの声。すっごい元気が良い。
セミの寿命は短い。だからその分鳴くのでしょうか。
でもセミは地面の中で幼虫として10年以上も過ごしてる。
だから寿命が短いということではないのかな。
10年間も暗い中で何をしていたんでしょう。
なんでそんなに長く暗いところにいるんだろう。
すっごく退屈そうだから、俺はセミにはなりたくないな。

でもねぇ、地面から出てきた彼らの産声は本当に楽しそうだ。
世界一地上のすばらしさ、気持ちよさを知っているのは実は彼らセミなんじゃないのかな。

空ってこーんなに広いのかよー!!って叫んでるように聞こえます。
ただあまり飛び方がうまくないですね。
自転車とかに乗ってると、時々コントロールを失ったセミに激突することがあるしね。


セミ、と言えば思い出すエピソードがひとつあります。
そんなに昔の話ではないのですが、
夏のある日、母親と電車に乗っていた時の話。
駅から電車へ乗り込むと、車内は微妙に混み合っていて、空いている座席はまばらだった。
俺と母親はバラバラに座った。
しばらく電車に乗っていると、
どこから紛れ込んだのか電車の中に一匹のセミが。

気が動転したセミは必死にわめき散らしている。
ジージージージー!!!って、すんごい声だった。
乗客は皆ビックリするやら怖がるやらで、軽くパニック状態。
でもみんなどうして良いのかわからない。
窓を開けて外に出そうとしても、バカなセミは混乱しつづけて飛び回る。
次第に車内は諦めムード。
セミも少しおとなしくなった。

その時、事もあろうにそのセミはなんとウチの母親の肩に止まった。
俺はその様子を、遠くで見守っていた。

そして、母は暴挙に出てしまった。
なんとセミをつかみ、自分のメガネケースの中にぶち込み、
ケースごとカバンの中に封じ込めたのである。
その間わずか数秒。
俺は我が目を疑いました。

乗客も一瞬、

「え?」

という空気になったのを肌で感じた。
母、こちらを見てちょっと困惑気味のかお。
俺、他人の振り。
せみ、何が我が身に起こったのかわからず、曖昧な鳴き声・・。

目的の駅まで数駅。
その間、イン・ザ・メガネケースのセミは、どういう訳だかおとなしくなってしまった。
乗客は、あのオバサン何者?というまなざし。
俺はもう恥ずかしさのあまり、電車から降りたくてしょうがなかったのを覚えている。
と同時に、母に尊敬と畏怖の念も感じていた。
正直、すげぇ!とも思った。

目的の駅で降り、メガネケースからセミを取りだした。
セミはよろついていたけど、次第に元気を取り戻し、
空に飛び立っていった。

なぜそんな行動に出たのか問いただす俺。

母曰く、それしか方法が思い浮かばなかったらしい。


夏の思い出。