仮面書蹟

仮面書蹟

小説用に用意しました。
かなり暗い感じの小説となると思いますが、読んでいただければ幸いです。
更新頻度は悪いかと思いますが、気長にお待ちいただければと思います。

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(悠里)
まずは、2人の出会いから話すね。
私が尚希と望実に出会ったのが高校になってからなんだ。
1年の時に同じクラスになったってわけ。
尚希と望実も全然面識なくって、最初は本当、ただのクラスメイトだったの。
道幸は中学から知ってたんだっけ?


(道幸)
尚希とは幼稚園が一緒で、小学校と中学校は違うよ。
望実は他中だったけど、中3の時に塾が一緒だったんだ。それなりに話はしてたよ。


(悠里)
紹介してくれたときに教えてくれたよね。
ねぇ、尚希ってどんな子どもだったの?


(道幸)
いきなりどうしたの?
いいんだけど・・・
ちゃんとは覚えていないっていうか、何年も経ってるから全然違うんだよね。
やっぱり、幼稚園のときってとにかく遊ぶことが好きってだけで、俺も尚希もそれなりに遊んだよ。よく好きだったアニメの話をしてたよ。


(悠里)
そうなんだ。尚希のこと、恐いなって思ってたから。
完全に人を寄せ付けないようなオーラ出してるし、よく喧嘩してたのかな?
腕とかに包帯巻いてることもしょっちゅうだったし・・・
今は優しいんだってわかってるんだけど、謎が多いのよね。
小さい時からそうなのかなって思っただけよ。
あと、望実は中学の時から賢かったの?
優しいし、成績はいいし、お料理は上手だし。
それになんて言っても細くてキレイなんだよ!
すっごいうらやましいし、
ちょっと気が弱いところあるから、そこが心配なんだけど。
あと、意外と誰とも付き合ってなかったみたいだけど、どうしてなんだろ?
すごくモテそうなのに・・・


(道幸)
俺は尚希のこと恐いって思ったことないんだよね。むしろ俺よりも優しいと思う。
確かに口は悪いし、クールであんまり他人と話すタイプじゃないしね。
尚希も頭はいいよ。機転が利くって感じかな。
望実は塾での成績はトップだったよ。我慢強く何でも努力するタイプだろうね。
気弱って印象を受けるのは俺も一緒だけど、芯は強いはずだよ。たぶん、俺たち4人の中で一番強いと思うよ。いつも笑顔を保てるっていうのはそうそうできるものじゃないから。
あと、彼女はすごく綺麗だからなかなか声をかけ辛いみたいだね。


(悠里)
改めて聞くと意外と印象って違うもんなんだね。
道幸の方が2人のことよく知ってるし。
でも、高校じゃ道幸だけがクラス違うかったんだよね。


(道幸)
そうだね。
2人と悠里が話始めたのも確か俺がきっかけだったっけ?
望実はともかく、尚希は自分から話かけようとしないだろうし、悠里から話かけるのもかなり勇気が要っただろうし。


(悠里)
そうそう。
道幸がめずらしく他の人に話かけてたからびっくりしちゃった。
特に、望実とは楽しそうに話すから一瞬疑っちゃったんだよ?
誰もあんまり話かけてなかったのに。


(道幸)
そうだったんだ。それは悪いことしちゃったかな。
仲良くはさせてもらってたけど、あくまで友達としてだよ。
出会ったときから悠里と付き合ってたし、悠里が想像するような感情はなかったね。


(悠里)
すぐに私のところに連れてきたからすぐに誤解だとは思ったけどね。
それでも、難しい話を2人でしてる時はちょっとジェラシーだよ。
それに、あんなキレイな子と楽しそうにしてたら不安になる~。


(道幸)
ごめんね。今後なるべく気をつけるよ。
ところで、俺は悠里に2人を紹介したわけだけど、2人同時ではなかったよね。
俺も気づかないうちに4人で話すようになったわけだけど、何があったかを話していこうか。


(悠里)
その辺は、実際のところは私の方が知ってるんだよね。
けど、その事件からどうして2人が話すようになったのかは、わからないのよ。


(道幸)
確かに、その現場を見てたらそうだったのかもしれないね。
特にさっきの尚希の印象を聞いたところじゃ、わからないっていう答えには納得できるしね。
それじゃあ、まずは俺の方がその辺の話をしようかな。
最初の事件は、放課後の掃除の時間。
尚希と望実がちょうど当番だった日だね。
終礼が終わってすぐのことだから結構多くの生徒がまだ教室に残ってたんだ。
悠里もその時はまだ教室にいたんだよね?


(悠里)
そうそう。
みんなの机拭くためにバケツに水を汲んでくるじゃない?
望実が行ってきたんだけど、他のクラスの女子がそのバケツに鞄をぶつけたの。
下から振り上げる感じで!
それで、バケツが引っくり返っちゃって、望実は全身濡れちゃったんだよね。
わざとやったのはバレバレなのよね。
でも、誰も助けようともしなくて、クラスの1人は「ドジだなぁ」って言って笑ってたんだよ!


(道幸)
当時、望実はクラスで苛められてたんだ。
原因はたぶん嫉妬。
彼女、家が資産家でもあったから、嫉妬の対象としては絵に描いたようだったんだ。。
高校に進学してすぐだったから、前の中学が一緒の子たちだけだったんだけど、放課後だったから何人か余所のクラスからもわざわざ来たんだよ。
俺も許せる話ではないと思ってる。
まぁまぁ、そこはここで怒っても仕方ないわけだし、話を戻そうか。
望実が水を被った場所のすぐ近くに尚希の体操服が置いてあったんだ。
被害にあうかどうかは微妙な位置だったね。
床には水たまりが出来て、望実は座り込んでしまう。
びっくりしただろうし、さすがに望実もどうすればいいかって、困ったんじゃないかな。
そこに、尚希が登場するってわけなんだけどね。
尚希は自分の体操服を投げて、
「水掛かったんだけど、乾かしてきてくれる? 保健室の先生がドライヤー持ってただろ? 後始末はやっとくから早く行って。」
って望実に言ったんだよね。


(悠里)
あれは、すごくひどいと思った。
望実は全然悪くないのに、どうしてそんなこと言うのって!
望実も最初は茫然としてたよ。
けど、望実は
「ごめんなさい。すぐに乾かしてくるね。」
って言ってすぐに保健室に行ったの。
私からは濡れては見えなかったし、別に放っておいてもすぐ乾くだろ! って思ったのよ。


(道幸)
確かに、それは見てる側としてはひどいって思うね。
他の生徒もそう思ったはずだよ。
苛めてた子たちにとっては、思わぬ追撃ができて得したって思っただろうね。


(悠里)
絶対にそうだよ。彼女ら嬉しそうに帰って行ったもん。
ホントに望実が可哀そうだった。
だから、すぐに望実を追いかけて保健室に行ったんだ。
そしたら、尚希の体操服はほとんど濡れてなくって。
それでも望実はちゃんと洗って返すって言ってたのよ。
ちょうどドライヤーはあったから望実の服を乾かすことはできたんだけどね。
それに保健室だったからカーテンで誰にも見られずに済んだし、タオルも貸してもらえたしで、不幸中の幸いだったよ。
それで望実とは一緒に帰ったんだ。鞄は望実が着替えてる間に取りに行って。
教室には誰もいなかったんだ。服乾かすのに結構時間かかっちゃったから。
尚希も帰っちゃってたなぁ。
濡れてた床は結構大雑把だったけど、ちゃんとは拭き取れてた。
けど、思い出したら尚希のあの態度ってなんなの?
結果的には得した感じだったけど、きっかけって、尚希の理不尽な命令じゃん?
怒る相手間違ってるでしょ! ってすごく言おうとしたんだけど、望実が「いいのよ。」って笑ってたから、結局何も言えなかった・・・


(道幸)
ちょっと落ち着きなよ。「思い出す」だけじゃなくて、別の視点で見てみればいいよ。
改めて見れば、違うことも見えてくるからさ。
実は尚希の体操服って、バケツをひっくり返したときには濡れてなかったんだよ。
望実の胸を目がけて体操服を投げて、望実がキャッチした時に濡れてるでしょ?


(悠里)
ほんとだ。
それに優しく投げてるようにも見えるし、変なところが多いかも・・・


(道幸)
そうだね。
じゃあ、次の日のことも話しておこうか。
望実は次の日に尚希に体操服を返してるよね。


(悠里)
そうだよ。
朝礼が始まる前に尚希に返してた。
尚希は何も言わずに受け取ってたんだ。
そういえば、機嫌悪そうだったかも。


(道幸)
返す時に望実は「ありがとう。」って言ってるんだよね。
しかも、いつもどおりの笑顔で。
水が掛ったのなら、「ごめんなさい」って詫びるところなのにね。


(悠里)
確かに・・・
けど、どうしてお礼なんか言ったの?


(道幸)
それは、一緒に考えてみようか。
まず、望実ってどういう風に教室を出て行ったの?


(悠里)
え?
どういうって、体操服を胸で抱くような形でキャッチして、抱えたまま走って行った。


(道幸)
上半身から水を被ったってことは、ブラウスに下着が張り付いた感じになるよね?
たぶん、透けて見えるような状態だったんじゃないかな。


(悠里)
それを隠せるようにわざと体操服を投げつけたの?
確かに、保健室で見たらすごい格好だったけど。
その時は苛めてた女子とか、尚希に腹が立ってたからそこまで考えられなかった!


(道幸)
それで間違いないと思うよ。
結局、後始末は尚希がやったわけだし。お礼を言われた時も何も返さずに受け取ったしね。
ここからは予測でしかないんだけど、悠里が腹を立てるような態度を取ったのは尚希の考えじゃないかな。
あの時、望実を苛めてた女の子から引き離してるんだよね。
それも、望実のことを責める形で。
たぶん、彼女たちは下着が透けて見える状態の望実に掃除をさせようとしたんだと思うよ。
けど、尚希が保健室に行かせた。彼女たちからは、思わぬ追撃という形があったからそれ以上自分たちが何もしなくていいと思っただろうし、尚希に喧嘩を売るようなことは言えなかったと思うよ。クラスの中では多くの生徒に恐がられてたから。
あと、望実が自分に感謝とかするのを避けてたんじゃないかな。進んで孤立しようとしてた節があるし。


(悠里)
けど、道幸とはそれなりに話してるよね?
望実のことが嫌いだったってわけじゃなさそうだし、彼ってそういうところ変だよね。


(道幸)
これから尚希のこと見ていけばわかるよ。
ひと先ず、以上が尚希と望実に起こった最初の事件だね。


(悠里)
別の視点で見るとやっぱり違って見えることもあるんだね。
道幸はやっぱり冷静に状況とか見るよね。


(道幸)
俺は、実際にこの場面に遭遇したわけじゃないから。
だから客観的に見ることができるんだと思うよ。
それに、俺は尚希と2人で話したり放課後を過ごすときもあるからね。
恐いって先入観が見えなくしてるだけだよ。
俺が関わった話になると、どうなるかはわからないしね。


(悠里)
その時は私の方がリードしてあげる。
ところで、次は何を話すの?
その、尚希との放課後ってのを個人的にでも聞いていきたいんだけど・・・


(道幸)
頼りにしてるよ。
じゃあ、その話をしようかな。


(悠里)
してくれるんだ。
怪しいことなんかしてないよね?


(道幸)
特に怪しいことはしてないと思うよ。
最初に、尚希が喧嘩をしてるのかっていう話があったけど、実際に下校中に不良に絡まれて喧嘩したときの話。
悠里の予想を裏切るような話になると思うよ。
俺も関わったんだけど、悠里には話したことなかったね。


(悠里)
そんな話あるんだ。
話してくれてもよかったのに・・・


(道幸)
喧嘩の話しても楽しくないでしょ?
心配されるのも嫌だったし・・・


(悠里)
何か誤魔化してない?
一応、今のところは怒らないであげるけどね。
これから誤魔化しようもなくなるわけだし、それからでも遅くないもんね。


(道幸)
どうして楽しそうなの?
ちゃんと話すから、あんまり怒らないでくれるとうれしいかな。


(悠里)
それは道幸しだいよね。
じゃあ、自白の機会をあげるから、まずは道幸が話をしてね。


(道幸)
それで、少しでも許してもらえるなら話させてもらうことにするよ。

(悠里)

さて、これから私は友達の2人のことについて話すわけだけど、その前に思ったことがあるんだよね。


(道幸)

何?

俺らの自己紹介が先じゃダメ?

それに、何の話をする説明しないでもわかるような話なのかな?


(悠里)

もう、話の腰を折らないでよ。自己紹介すればいいのね?

私は、悠里(ゆうり)。それでもう一人が道幸(みちゆき)っていうの。

これでもカップルだよ。すごく仲いいんだから。

今から話すのは、友達の尚希(なおき)と望実(のぞみ)のこと。

ちなみに、この2人もカップルね。

時期は私たちが高校生のときのことだね。

ていうか、これ、誰に対して説明してるの?


(道幸)

誰か聞いてくれる人、いや、この場合は見てくれている人にかな。

別に気にしなくていいよ。何か話したかったみたいだけど、どうしたの?


(悠里)

そうそう。

今から2人のことを話すわけでしょ?

そして、その話が物語となる!


(道幸)

それがどうかしたの?


(悠里)

実はそれってすごいことじゃない?

今からする話って、私たちの知らないはずのこともあるよね。

望実が尚希とキスするとことか、私見てないし、望実も教えてくれなかったもん。


(道幸)

そうだね。

実際の俺たちじゃ、話せる内容なんか限られているし、当人に話をさせた方がその時の気持ちとかわかるんだよね。


(悠里)

それって、私たち、神様みたいってことでしょ?

だって、私たちって何でも知ってるのよ。

まぁ、宇宙の真理とかcosの意味とかは知らないけど、2人については何でも。

それこそ、道幸のことよりもよ!?

この場所限定だけど・・・


(道幸)

なるほどね。

確かに、そう考えることもできるね。

出来事に関しては本当に俺たちは何でも知ってる。

けど、意外だね。悠里は、神様ってものを観察者として捉えるんだ。

俺は、そういった考えだけど、悠里は造物主として神様を考えてると思ってた。

ちなみに、cosは数学の三角関数の中の余弦関数だよね?定義をちゃんと覚えておいて。


(悠里)

何難しいこと言ってるの?

神様って何でも知ってそうだからそう言ったんだけど・・・

わざわざ答えなくていいよ。私、数学嫌いだし~。


(道幸)

悠里のそういうところ、やっぱり好きだな。


(悠里)

ヤダ、恥ずかしい。

あれ、何、その顔?

もしかして、馬鹿にしてる?


(道幸)

馬鹿にはしてないよ。子どもっぽいとは思ったけど。

俺はそういうところが好きなんだよね。


(悠里)

なんか複雑~。

まぁ、好きって言ってくれるからいっか。


(道幸)

悠里の言うとおり、俺たちは神様みたいなものかもね。

一時期にはなるけど、2人に起こった出来事、2人の会話、いろんなことを知ることができる。さすがに、探偵とかストーカーでもここまでのことはできないんじゃないかな?

けど、これから話す物語には、俺たちも登場するわけだし、2人についてお互いに思うところはあるんだよね。

要するに、俺たちは観察者と当事者という二面を持ってるんだ。俺たちはどうしても主観的にこの話を語ってしまう。

そうすると、神様みたいとは言うものの、やはり神様には程遠い存在とも思えてくるね。

本当に神様が実在するとして、それが人格的な存在なのか、システムなのかはわからないけど。あと、神様って自分の存在について考えたりするのかな?


(悠里)

私は、道幸のそういうところきら~い。


(道幸)

どうしたの?


(悠里)

また難しいこと考えてる。

難しいことなんて面白くないじゃん。

もっと楽しもうよ。


(道幸)

すごくおもしろい考えじゃない?

今から「主観」と「客観」という視点で俺たちの存在について考えようと思ってるところなんだけど・・・


(悠里)

スト~ップ!!

お願いだから、それはまた1人で考えて!?

せっかく2人でお話するんだから、2人で望実たちの話を楽しもうよ。


(道幸)

今からする2人の話は楽しい話だったっけ?


(悠里)

ん~

それは、後のお楽しみ。

じゃなくて、道幸は私と2人でお話するの楽しくないの?


(道幸)

それは楽しい。悠里と話するの好きだし。


(悠里)

道幸のそういう素直なところは大好き。


(道幸)

ありがとう。


(悠里)

それじゃあ、お話しだね。

尚希と望実の物語の始まり~、始まり~。

私は数日で退院し、その後仕事にも復帰した。

あの時、彼を殺し、そして自分も死のうと考えようとしていたはずだ。

思い出した私は、何度か死ぬことを考えた。



しかし、死ぬことはできなかった。



ビルから飛び降りようと屋上に上っても、手首にナイフを突き立てても死ねない。

死ぬことに恐怖してはいなかったが、死ぬことができない。

足がすくみ、手が震える。

あとどれだけ踏み出せばいい?どれだけ深く刃を入れればいい?


何度試しても同じ結果。

中途半端に終わってしまう。

何度同じことを試したか、私の中で何かが壊れたように、自然と笑いが込み上げてくる。

笑いながら私の頬を涙が伝った。


それでも私は彼のことが好きだった。

死んだ今でもそれは変わらない。

死ぬことはできなかったけど、その代わりに私は手首の傷を増やしていった。


恋愛もせず、ただ仕事のノルマをこなすだけの日々が続いた。

いつしか、死ぬためのリストカットではなく、彼への想いを消さないためのものとなり日常と化していた。



何年か経ち、新たな出会いが訪れる。



会社で知り合った同年代の男性。

その男はすごく優しく私に接してくれた。

最初は誰のことも拒絶していた私も、徐々に彼に魅かれていった。


予感はしていたが、その時はとうとう訪れた。


「君のことが好き。付き合ってくれないかな?結婚を前提にお付き合いして下さい。」


その人は私の過去を知らない。

私の手首の傷も・・・


「少しだけ待ってください。」

付き合うのであれば、ちゃんと話をしたい。

だからその時はそう答えるしかなかった。


そして、私は彼のことを男に話した。

告白されて数日経った日のことだ。


私はすべてを打ち明けた。

数年前に付き合っていた彼がいたこと、その彼が事故で死んだこと、彼の死ぬ直前彼に対して抱いた殺意、今でも彼が好きだということ、彼の後を追って死のうとしたこと、手首を傷つけていること・・・


男から拒絶されるだろうと私は予想した。

それでいい。

私は幸せになれない。

もう、拒絶されることなんか怖くない。

彼への想いを抱いて、彼に対する罪を背負い続けて死ぬだけだから。


しかし、男からの返事は予想外のものだった。


「俺が幸せにするから、その人のこと忘れさせてあげるから。俺の気持ちは変わらないよ。」

「でも・・・」

「じゃあ、この前の返事はもう少し待つよ。けど、これからもデートとかしてくれるかな?気持ちの整理がついたときにまた返事をくれればいいから。」


すごくうれしい言葉だった。

あまりの優しい言葉に涙が溢れた。

それを見た男は、そっと私を抱きしめてくれた。


私はその男と一緒の時間を何度も過ごした。

告白の返事を急かすこともなく、1年ほど待ってくれた。

その間も私は彼のことを忘れることはできなかったが、手首に刃物を当てる頻度が少なくなっていった。


そして、そこからまた半年、告白されてから1年半ほどの月日が流れた。

私は、初めて男を呼び出し、話をしたいと告げた。

待ち合わせの約束をし、私はすぐに駅へ向かった。


歩いて駅に向かう途中、男への想いを再確認する。

あの人なら私のことを幸せにしてくれる。

こんな私のことを受け入れてくれた。

それが嬉しくて仕方がない。


そのためには過去を吹っ切らなければならない。

男の想いに答えるために、私が前進するためにしなければいけないこと。

彼のことを忘れる。


罪は償えないし、それを忘れることは許されないと思うが、彼への想いは忘れよう。


そんなことを考えながら横断歩道を渡る。


『私はあの人が好き。』


その瞬間、私の身体に何かが衝突した。


何が起こったのかわからず、ただただ意識が朦朧とする。

かすむ視界の中で見えるものは地面を流れる赤い血と、私の腕だった。

何度も傷つけたはずの手首。

傷は癒え、傷跡もきれいになっている。


これなら、あの人とちゃんと新しい人生を歩んでいけるかな?


そのまま私は目を閉じた。

私は彼を愛していた。



「好きだよ。ずっと一緒にいようね。」

何度交わした言葉だろうか。



死ぬまで一緒にいよう。

ずっと抱き続けていた想い。



私には彼のいない人生などなかった。

彼と一緒になるための努力もした。

彼に相応しい女になるための努力も苦ではなかった。

少しでも彼に喜んで欲しくて、少しでも彼の喜ぶ顔が見たくて。

彼がいるから。

ずっとそばに居てくれるから。



そんな幸せな時間は突然終わりを告げた。





「別れて欲しい。」





私が最も恐れていた言葉。

世界が真っ白になる。

私は泣くことしかできなかった。

いつしか、私は彼の車に乗っていた。




沈黙の車内。



見慣れた風景。

いつもの帰り道。

家に着いたら、もう彼と一緒に過ごす時間は訪れない。

別れの言葉が私の中で現実味を帯び始めた。



先ほどよりしっかりした意識の中、私は震える。

涙が止まらない。



悲しくて、苦しくて、寂しくて、そして怖い。



「どうして?」



いろんな意味が含まれた問い。



どうして、別れないといけないの?

どうして、嫌われたの?

どうして、こんなにも苦しいの?

どうして、こんなことになったの?



どうして?

どうして?

どうして?

どうして?





無情にも時間だけが流れる。





「さようなら。」





私の家まであと数十メートル。

そんなことに気づくと同時に芽生えた感情。



イヤ、こんなお別れは・・・

それなら、いっそのこと、彼を殺して・・・

私・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







続きはなんだっただろうか?



いつしか、私は気を失っていた。





意識が戻った時にはどこか別の場所に居た。



見慣れない天井。

頭痛がひどい。



私はどうしたんだろう?



起き上がろうとするが、頭だけでなく全身が痛くて動けない。



母から病院ということを聞かされた。

母や医者から話を聞くと、事故に合ってそのまま病院に運ばれたということだ。

2日間寝ていたらしいが、まだ安静にということで、それだけを言われてその日は眠った。





そして、次の日にすべてを聞かされた。





彼の運転する車に、対向車のトラックが突っ込んだということだった。

車は大破したが、私は全身打撲で他に目立った外傷はなく、脳の精密検査を受けても異常は見られなかった。

医者からは、すぐにでも退院できるが、動けるようになるまで入院していてもよいと言われた。

その後、彼がその事故で亡くなったことを聞かされた。

運転席側への衝突だったため、即死だったらしい。

葬儀も終わり、彼の両親も私の見舞いに来た。

彼の両親は別れ話の後だったことは知らないようで、事故のことを私に謝った。

対する私は何も話すことができず、茫然としているだけだった。

皆、彼の死にショックを受けていると思ったのだろう。

私の両親と彼の両親は、慰めの言葉をかけ、病室を出て行った。



ショックを受けたのは確かだ。

それは、彼の死というものではなく、彼の死に対する自分の冷静さに対して。



確かに私は彼を殺そうということを考えた。

現実は単なる事故のようだが、私は彼を殺そうとした。

そして、そのショックはあの時の別れ話ほどではなかったのもまた事実だった。

はじめまして、哀渇正仮と申します。


2014年となり、本日から少しずつではございますが、私の小説を載せさせていただきます。

稚拙な文章ではございますが、読んでいただき、また、感想などいただければ幸いです。


内容はこのようなご挨拶と小説のみにするつもりですが、お話は好きですので、メッセなどでコミュニケーションが取れるとうれしいです。


それでは、2014年という年が皆さまにとって素晴らしい年であることを願い、私の挨拶とさせていただきます。



このあと、SSを載せます。

短いストーリーではございますが、お楽しみいただければと思います。