映画『おとなのかがく』を見てきた感想を書きます。物語の内容に触れる部分もあるので、見ようと思っている方は読まないほうがよいかも。
映画のパンフレットの上段に、奇抜な形状をしたテオヤンセンのアート作品が太陽の光に照らされて神々しく掲載されているのに対し、下段は薄暗いマンションの一室で男性が机に向かって座る姿が少し遠めのアングルから捕らえられています。この男性は『大人の科学』のテオヤンセンのミニチュア付録の試作をした職人で、映画の主人公です。輝かしいアート作品とどこか寂しげな試作職人の職場のコントラストがこの作品を物語っていると思いました。
映画の冒頭はテオヤンセンの作品の紹介から始まりました。海から吹き付ける風を動力源として、カニのような複数の脚部を交互に動かしてテオヤンセンのアート作品が海辺を進む。始めて見たテオヤンセンの作品でしたが、その複雑な機構と奇妙な動きは否が応でも目を奪われることだと思います。
物語は『大人の科学』の付録となったミニチュア版テオヤンセンの開発現場に密着する形ですすんでゆきます。この付録づくりに、知恵を絞りながら、試行錯誤して問題解決して行く様子や、職人の手業を垣間見ることがこの作品の前半の見どころでした。部品点数が多く複雑な動きをするテオヤンセンの作品を、匠の腕をもつ試作職人が、様々な工作機械を駆使して0.05ミリの精度で部品を作り上げます。
次に製品は試作の段階を経て量産へと移りかわります。舞台も職人の工房から、中国・深圳の工場へと移り、量産段階を垣間見ることができました。職人の厳しい要求に優秀な中国人技術者が応じて、量産用の金型を仕上げてゆきます。その仕事ぶりに職人は深い信頼を置いているようでした。
しかしそこで見られるのは、技術が日本から中国へと移転してしまったという産業の空洞化だけではありませんでした。経営の効率化を追い求める過程で、技術だけでなく素晴らしい製品を作ろうという、ものづくりへの魂まで失いけかけている現実でした。日本はものづくり大国だと思っていた僕にとっても、寂しさを感じさせられました。
テオヤンセンの作品をミニチュアで再現する職人技の素晴らしさに感心させられるととともに、技術のみならず魂まで失いかけている日本のものづくりの現状の寂しさを感じさせる映画でした。
