わたしはMのことを何も知らない。

知っているのは、職業と名前だけ。


年齢は自分よりは年上に見えた・・・

ということは、結婚している可能性も大いにある、わけで。

どうにかして、未婚か既婚かを確かめなくてはいけない。


しばらくぶりのわたしの恋愛話に、友達は皆、なぜか喜んでくれる。

「いいなぁ」という羨望と、「まさか」という驚きと、「よりによって接客業!」というほんの少しの侮蔑が混ざっているけれど。


皆一様に、結婚しているかどうか、年はいくつなのかを確かめる。



既婚だったら、どうするの?

あっさり諦める。


じゃあ独身だけど彼女がいたら?

婚約中とかじゃなければ、様子を見ながら待つかも。


実は年下だったらどうする?

うーーーん、、、どうしよう。


もしくはすっごく若く見える40歳とか!!

肌きれいだしあり得ないと思うけど、50歳までなら大丈夫!だとおもう。。。

いや、やっぱり45歳くらいまでかな、、


ねえねえ誰に似てる?

特別恰好良くはないから、ちょっと分かんないなあ


ああーメンクイじゃないもんね

イケメンは信用できないもん、釣り合わないし引け目感じるのやだし


じゃあ結婚してますか?って聞いちゃえば。

普通の会話の流れから、その一言発するのって、すごーくすごーく難しくない?


うーーん。なんか嘘でもいいから作り話をして、遠回しに聞くとか?

むつかしーなあ。その嘘話考えてよ。


いいよ!最近まわりが結婚ラッシュでー、とか。

なるほど!




ガールズトーク、とやらはどこまでも続く。


Mとの出会いは、あるお店。

私はお客さん、Mは店員さん。


この年になって、まさかこんなところに、

フィクションみたいな中学生みたいな出会いが転がってるなんて、思ってもみなかった。


でも、出会いだと思っているのはきっと私だけ。


接客業のMが愛想がいいのは当然だし、

客あしらいも慣れてるし、

Mの「オン」の状態しか知らないし、

そもそもこんなの無理に決まってる。



今までもこうだった。


マイナスの要素ばかりが心に浮かぶ。

好きになるのが怖い。気持ち悪がられたくない。

傷つきたくない気持ちが先行して、高性能のブレーキがかかる。


片思いの予感は、いつのまにか日常生活に溶けて消えることを知ってるから、

見て見ぬふりをする。

体を丸めてじっとしていたら、もやもやした気持ちはいつの間にか見えないくらいの小さなしみに変わる。


そうしたら、もう大丈夫。

彼と話すとき、私は女の子じゃなくて、戦友や、妹や、後輩や、同僚や、姉貴分になる。


ひた隠しに隠した思いは、友達にも、誰にも明かさずに、しみになる。



でも

今度は何か違う。


どうしてもしみにならない。

水たまりから池に。池から湖に。湖から海に。

波のように寄せては返すこの気持ちは、

体を丸めても、目をぎゅっとつぶっても、耳をふさいでも、過ぎ去ってくれない。


今まで出来たしみを食べて大きくなっていくみたい。


怖い。

認めたくない。





数週間、悶々として、今やっと文字にできる、この気持ち。

私、きっとMに片思いしてる。






20代半ばのわたし。

ここ数年、恋もせずに仕事に没頭してきた。


彼氏なんていらない、面倒くさい、今はそんな暇ないしさみしくない。

友達がいればいいし、十分すぎるほど幸せで恵まれた生活。


その甲斐あってか?仕事は軌道にのりはじめ、だんだんと自分の足場ができてきた。


たまに、寂しいな、、、と思ってもそれは一過性のもの。

クリスマスとか誕生日、仲の良いカップルを見た時、恋をしてきらきらしている友達と話した時、

結婚式に出席した時、眠れない夜にふとひと肌恋しくなる時。


数時間たてば、日常に紛れて消える、些細な感情。



そんな風にして数年が過ぎて、

自分で思っていた以上にその些細な感情が積もり積もっていたことに、


彼と出会って気づきました。