推しが恋人7 



SideN


公私混同するつもりはなかった。

だが、しょうがないのかも。


俺は転々と色んな職業を体験してきた。


「カズ?」


「智、なんで俺を選んだの?」


「んふふ、カズがいいって思ったから」


きっかけは働いていた喫茶店でなんとなく智は普通の人に見えていた。


けど、絵を見た途端天才なんだろうなって。


智に事務所に誘われたからとりあえずやってみるかと思いそれがJのマネージャーになることだった。


最初は根掘り葉掘り聞いて情報収集。

Jのマネージャーは悪くは無い。

けど、Jには恋人がいる。


「あ、二宮さん」


「こんにちは


それが翔さんだった。

怒られちゃったな。

そりゃそうだけどあれで別れるならそれまでの関係なんだろうなって。


「マネージャーならそばにいないと」


「私は年始でJのマネージャーから社長秘書に変わる予定です。 今日は他のマネージャーがついていますから」


「そっか。 推しがこうやって大画面に出てると凄いなって。 なんとなく自然と見に行くことがあるんだ」


凄く好きなんだな。

智のことまだ全然分かってないな。

告られた時はまだそういう意味の好きは自覚してなかったし。


「相思相愛ですね」


「ん?社長さんとは別れちゃったの?


「よく分からなくて。 好きは好きだけどみたいな感じで。 それなりに嫉妬もしますけど」


なんとなくで付き合っていると言うか。


「じゃ、別れよって言われたらどうするの?」


「受け入れると思います」


俺なんか恋人にしたっていいことないと思うし

別に智が嫌なら無理して一緒にいる必要ないし


すると翔さんは


「まぁそうなのかも。 いいんじゃないかな。 俺も悩んだたりすることはあるから。 でも、その手を離して後悔するぐらいならきちんと話し合った方がいいかも。 大野さん、不思議な人だよね」



と言った。

そうか。

話すか。


自分から気持ち伝えてなくて。

そういえば好きとは言ったことなくて。


「2人の関係が少し羨ましいのかもしれない」


「そうかな。二宮さんよりも大野さんが積極的で大野さんの気持ちに答えることで深くなるかも。 大野さんは二宮さんを全部信頼しているというか俺達とイチャつくのは寂しいからじゃないのかな」


そうだったのか。

そういう意味だったんだ。

構ってあげてるつもりだったのかもな。


「頑張って。 俺、幸せなんだ。 でも、それは潤が愛してるって気持ちが伝わるから。好きって気持ちが伝わるから。 言葉が全てとも言えないし態度が全てとも言えないけど。 じゃ、俺は潤が帰ってくるから。 ハロウィンパーティーには参加させてもらうね?


翔さんみたいになれたらいいのかな。

家に帰ると智がいた。


「カズ、おかえり」


「早く帰ってきていいの?」


「だって、カズといたいもん」


仕事サボってまで帰ってくるのは良くないな。

抱きしめてあげるけどさ。


「なんで俺といたいの? 俺、構ってあげることしかしてないけど」


他の恋人ならもっと優しくするだろうしもっと大切にするはずだ。


「なんでだろうね? 全部受け止めてくれる人だと思ったから。 どんな僕でもカズが嫌うことは無いと思った。 嫌なら嫌でいいの。 カズが僕のこと嫌では無いと信じてるからカズから聞かないけど」


「智の好きな気持ち伝わっているのになかなか言えなくて 」


ごめん。 どうしてこうモヤッとするような気持ちが出てくるのか。


「それはいいの。 カズ、好きなら抱きしめて?キスして? 抱いて?


「分かった」


「んふふ、カズ、大好きだよ」


恋って難しいもの。

でも、成長はできるもの。


俺はそっと抱きしめた。

それから智にキスをした。


「智、好きだよ」

  

これなのかも。

智の笑顔が好きなんだ。

そしてこうして二人きりになると可愛くなる智が。

 

「んふふ、ありがと」


「どういたしまして」


「あのね、言っておきたいことがある」


「何?」


「僕、怖いの。 社長しているのはお父さんが事故死した結果だ。向いていないしやりたくもなかったけど。 だから僕の実績はJをトップモデルにしたことしかない」


そんなことないとは言えなかった。

確かに事務所に入っても売れ行きがあまり良くない人がやめていくことが多いから。


「なら、俺がそんな才能の芽を育てるよ。 来年からになってしまうけど」


「ありがと」


「俺は色んな仕事をしてきた。それが役に立てればと思ってる 」


智の手助けしたい。

怖いならそれを手伝って少しでも負担を減らすことが近道なのでは?


「大丈夫かな」


「少なくてもJがいる。 智の親父さんの代からいる方達がいる。 大丈夫だよ」


「ありがと」


「智の見る目は間違ってないと思う」


ただ、その人達が智の期待に答えられてないだけなのでは?

そりゃ入ったばかりの俺が言うのは失礼だとは思うけど。


「ハロウィンパーティーは集めることも狙いだからね」


「仮装はしないからね?」


「えー、それはダメ。 カズは見守るだけだけど全員で仮装しないと」


しょうがない。

当日の仮装は用意しとかなきゃな。


この日をきっかけに俺達の関係も事務所も順調になった。