SideJ
夏休みが嫌いなりそう。
夏期講習なんか受けたって意味が無い。
毎年受けてきたけど、全然成績上がらない。
僕は一生懸命やってるのに、どうして上がらないの? 家でもテスト前は真面目にやってるよ?
毎年同じような成績・・・このままじゃ高校なんてあんまり選べないよ・・・。
だから、僕は両親に辞めたいと言った。
説得出来たらって話になった。
智さんが塾長だから、少し話しやすい。
「智さん、僕、塾辞めたい」
そう言えば
「ごめん、ラスト俺にチャンスが欲しい、松潤が辞めたがってたのは知ってるけど、いい人見つけたんだ、夏休み限定だけでもと言ったんだけど」
毎回そうじゃん、先生を変えたって成績が変わらない、そもそもイマイチ先生の言ってることが理解できないの。
「次こそ無理だったら辞めてもいいの?」
そう聞けば
「いいよ、それは俺の責任でもあるしな」
しょうがないと思い、夏期講習を申し込み、受けることを決めた。
そして、初日を迎え、僕は2教科だから2時間受けることになる。
「来てくれて良かった」
ん? もう一人の人が先生?
「約束だもん」
そう言えば
「まぁ、そうだな・・・」
で、どうしたらいいの? 僕はあまり話せるタイプじゃないから積極的なんて無理。
「智さん、この子が潤くん?」
「そうそう、可愛いだろ?」
智さんがそう言うと
「ふふっ、確かに」
かっこいいね・・・先生、モテそうだね?
「じゃあ、こっちね?」
え? 1番奥の部屋に僕は連れていかれることになった。 1番奥は誰も使わないのに・・・。
「潤くん、分かんない問題ある?」
「あるよ」
指をさせばその問題を見てゆっくりと教えてくれた。 そして、纏まってる? なんて言えばいいのだろう、分かりやすいかも。
それから分かんない問題を色々と教わりながら進んでいき、あっという間の2時間だった。
帰って少し復習すると先生の言ってたことを思い出す・・・こんなにもスーッと頭の中に入ってくるのは初めてだった。
次の日、また昨日のところからでその内容がしっかり分かっててそれから進めて今日は早めに終わった。
「潤くん」
「何?」
「時間あるでしょ、少し話しない?」
んー、確かに先生のことはなにも知らない。
「いいよ」
「ありがとう」
先生が嬉しそうだった。
僕、素っ気なかったかな?
「先生のお名前は?」
そう言えばキョトンとした顔をしていた。
あれ? 僕、変な質問しちゃったかな?
「あれ? 言ってなかった?」
「聞いてない」
そう言えば申し訳なさそうな顔をしていて
「ごめんね? 俺、切り替えるタイプだから自己紹介するの忘れてたみたい」
そうなの?
そんな人初めて見たとは思う。
「俺は櫻井翔だよ、夏休み中のバイトの探してたんだ」
なるほど・・・バイト探してたのか。
「そうなの?」
「うん、まだ学生なんだ」
え? 学生なの?
「夏休みだけなの?」
そう言うと頷いて
「そうだね、普通に学校あるし、まさか高校生で塾の講師とは思ってなかったけど」
え? 高校生なの?
そんなふうには見えなくて僕は驚いた。
「何年生なの?」
「2年だよ」
え? 2つしか違いないの?
どうして? 全然違うね、僕なんかよりもカッコよくて頭良くてモテそうで大人ぽいよ。
「そうなんだ・・・」
「そう、そんなに年齢変わらないみたいだし、気軽に話そう?」
全然違うのに気軽に話せるのだろうか。
でも、教え方は上手なんだし、大丈夫だよね?
頷くと嬉しそうに笑った。
それから、お盆休みになるまで毎日通って進むペースが早いのにそれでも僕は追いついていてあれ?と思っててもすぐに思い出せる。
先生の教え方、丁寧さと纏めてるのと分かりやすくってのがあるから?
他の先生の話はいつも長くて聞いててもスーッと抜けてしまう。
「なんで、教え方上手いの?」
そう聞けば
「え? 上手かった? それは良かった、普段から教える人じゃないからさなるべくわかりやすいようには言ってるつもり」
先生って不安だったのかな・・・そう思うともう少し早く言ってあげるべきだったのかと思った。
お盆休みに入るとなんかいつも塾を行っていてのんびりする時間が長く感じた。
そして、先生は何をしてるんだろって思う。
高校生だから遊んでるのかな? お勉強してるのかな・・・気になるとだんだん僕の中で大きくなり始めた。
何日間休みがあって旅行行くことは決めてあって先生のお土産買うのに迷った。
僕は何を買えばいいのだろうって、同級生ならなんでもいっかってとはなるけど、2つ上だからそうもいかない。
食べ物系かストラップ系か迷い、両方買うことにしたんだ。
で、お盆明けお土産をあげると嬉しそうだった。あげて良かったし、どっちも喜んでくれたのが嬉しかった。
「実家と宿題でお土産ないな・・・プレゼント潤くんが良ければ・・・なるのかな?」
「え?」
先生は僕に近づいて僕を抱きしめ・・・
暫くの間、僕は動けなかった・・・
と言うよりその温もりが温かくて怖くもなく先生に身を任せていた。
でも、離れると先生は少し困った顔をして、そっと僕の顔を触って僕にキスしてきた。
キス? キス? 僕にキスをしてきた?
あれ? 男だよ? 僕、間違えられてる?
僕は女の子ぽく見られるからたまに男に告白される。
「どうして・・・? したの・・・?」
すると先生は
「好きだからだよ、好きじゃなければキスはしない、男だってのも分かってる上でのね?」
ほんとに? 男だと分かってても・・・
「僕は可愛いから?」
そう聞けば
「それもあるけど、全てが好きかな」
僕の全部が? 僕は好きなのかな・・・
僕にとってはファーストキスだから、キスは初めてなんだ。
「ほんとに?」
「嘘つかないよ」
んー、僕は好きなのかな?
「僕のファーストキスだったんだから責任取ってね?」
どういうことだか分かってる?
「ふふっ、それは嬉しい、俺もファーストキスなんだ、俺と付き合ってくれるの?」
「いいよ、先生の好きなようにして?」
そう言えば少し困った顔をして
「潤くんの意思は?」
「意思?」
「ふふっ、潤くんは俺とでいいの? 俺の好きなようにしていいの?」
「いいの、好きなんでしょ? 僕は好きかはハッキリとは言えないけど、嫌いじゃないもん」
そう言えば
「だから曖昧ぽいのか、分かった、潤くんを好きにさせてみせるよ」
ふふっ、もっと好きにさせて見せてね?
「うん」
楽しそうだなって思うの、先生とならずっと一緒にいても楽しそうって、そう思うと先生にならこの身を捧げたり、甘えたり、甘やかしたりしてもいいんじゃないかなって思う。
「ふふっ、可愛い、誰よりも可愛いと思う」
そうなの? そこは分かんないけど・・・
「ありがと」
そう言うと先生は照れて頷いた。
え? 嘘でしょ? 先生ってカッコイイだけじゃなくて可愛いもあったの?
なんか、ドキッとする・・・
「ちょっとさ・・・」
「え?」
「その笑顔は俺だけにしといて?」
「そんな事言われても・・・」
僕には分からないよ。
「ごめん、そりゃ自覚ないもんな・・・」
ふふっ、困った顔が今は可愛く見える。
その日から僕は恋人としてはいるけど塾でしか会わないし連絡先も知らないから一緒にいる時間が変わらない。
けど・・・その間に僕は好きになってきていることを自覚した。
「潤くんからキスしてみて?」
僕から? 今までは先生からでそれを受け入れて受け止めて・・・ちょっとドキドキしてたけど
「無理!」
「なんで? 好きならいいでしょ?」
「恥ずかしいもん」
僕は先生よりも年下で自分からキスしたことないから上手じゃないし、下手くそって思われるのも嫌だし、恥ずかしいし、僕の顔が真っ赤な気がする。
「なるほど、じゃあ、いつかしてくれそうだからそれまでは俺からするよ」
待ってくれるの?
でも、待たせるのが申し訳なく感じる。
せっかく先生が勇気を出して言ってくれたのに拒否られることも覚悟した上で告白してくれたのに・・・僕はこんなワガママでいいのだろうか。
僕のワガママ・・・
こんなんじゃダメだよね・・・
そう思うと自然と僕は先生の唇にキスしていた。
「・・・//」
あれ? 僕からキスしたら照れちゃってる。
「先生?」
「ありがとう、めっちゃ嬉しい」
先生・・・ドキドキが止まんないよ・・・
そんな日もあって夏期講習の最終日はとうとう自分が寂しくて泣いちゃった。
すると、先生は優しく僕を抱きしめて僕が泣き止むまで背中をさすってくれた。
その後は連絡先を交換して・・・住所を教えて貰ってその次の日に僕は先生のお家に向かった。
もちろん、ママにはお勉強会と言って出ていったけどね?
ちゃんとやるよ? 先生と同じ高校に行く為にも頑張る。
「来てくれた、潤が望むならいくらでも教えてあげるし、毎日来たって構わないよ、基本帰ってきたら暇だしね? 恋人でもあるんだからワガママは大歓迎、その代わり嘘つくのは禁止」
僕の夏休み・・・初めて楽しくて初めて嬉しくて初めてキスして、恋人となって・・・
夏休みが嫌いにならなくなった。
夏期講習行って良かったって思う、じゃなきゃ僕はずっと夏休みが嫌いだし、勉強も嫌いになってたからね。