イジメていたサトミは昔と見違えるほど、強い女性になっていた。
しかも、イジメられていたことを今もしっかり覚えているらしい。
俺は恐る恐るサトミの顔を見ていると、その視線に気がついたのかサトミが俺を見て言った。
「…何? さっきからチラチラ人のこと見てるけど、誰? 何か言いたいことがあるの? だったらハッキリ言えば?」
「え?! あ…あの、俺、シロタだけど…覚えてる?」
一瞬、慌てたものの俺はここに来た目的を思い出し、サトミに歩み寄りながら話しかけた。
「シロタくん…? 保育園から一緒だったガキ大将の? 壊してもない玩具を壊したって因縁つけたり、小テストの時に後ろの席だったあんたが落とした鉛筆を拾ってあげようとしたらカンニングしたって先生に言いつけたり、調理実習に使うために自分の家から持ち出したコーヒードリッパーを、教室の机の上に出しっぱなしにして掃除の時間に机を移動させた私が落として割ったって当たり屋みたいなこと言ったりした?」
「そ…そう…」
俺は目眩を覚えた。
今の今まで全部忘れていたが、昔の俺は素行が悪すぎた。
そして、サトミは俺の素行の悪さをすべて覚えている。
「じゃあ、その後ろから着いて来てるのはセトくんでしょ? 私の前の席に座っていた時、立ち上がる度に椅子で私の机をわざと押してきた底意地の悪いセトくんね。 相変わらずシロタくんの腰巾着やってるんだ」
そう言うと彼女はニコニコと笑った。
「な…なんか怖くなったね、彼女…」
タカポンがひきつりながら俺に囁く。
「…というか、まだ怒ってるみたい…」
当たり前だ。
バイ菌呼ばわりされたり、因縁つけられたり、カンニングしたと言いつけられたり、ネチネチ嫌がらせされて怒らない人間は居ない。
そんな当たり前の事すら気付かないバカな俺たちの方がどうかしていて、数十年経っても彼女の怒りは消えないのはもっともなのだろう。
俺は意を決して頭を下げた。
「ゴメン! あの頃、バカなガキだった俺たちのせいで傷付けて!」
「ゴメンな、サトミ。俺たち本当にバカだったんだよ」
タカポンも頭を下げた。
「ゴメン! 許してくれ!」
イチハラも薄くなった頭を下げる。
辺りが静まり返り、頭を下げて床しか見えていなくても無数の視線が注がれているのが判る。
正直、恥ずかしかった。
しかし今夜、ここに来たのはこのためだ。
仕方がない。
しばしの静寂の後、頭の上からサトミの声がした。
「三人とも、頭を上げて。もう良いのよ、謝らなくても」
オズオズと顔を上げると、ニッコリ微笑むサトミと目が合う。
「…サトミ」
「謝らなくったって良いよ」
俺はホッとしてサトミに笑いかけた途端、彼女は笑みを浮かべたまま言った。
「謝ったって許さないから」
続く