いつまでも男二人でモジモジしているのもどうだろう。
ということで、俺とタカポンはお互いに押し合うようにサトミの前に進み出ようとした。
その瞬間、脇から青い顔をした小太りの男がサトミの前に進み出る。
「あの…久しぶり。覚えてる?」
男が言うと、彼女は男の顔をマジマジと見たあとニッコリ笑って言った。
「ごめんなさい、わからないわ」
「ひっでぇなぁ、俺だよ! 昔、よく遊んだじゃん!」
言いながら男が胸の名札を見せると、彼女は目を見開いて驚く。
「…ええ?! イチハラくん? 牛乳が飲めなくて、チビで同学年の男子にいじられるから年下の子を従えてた?」
「そ…そう」
うなずくイチハラの顔はひきつっていた。
「なんだ、イチハラくんか。随分とオッサンに成り果ててるから、わからなかったわ」
そう言ってカラカラと笑うとサトミは手にしたグラスを口に運び、涼しい顔で中身を飲んだ。
ひきつった顔のイチハラを眺めながら、俺は驚いた。
サトミは子供の頃、何を言われても言い返さない大人しい少女だった。
それがサラリと嫌味を言うようになるなんて、年月とはすごいものだ。
「…何? 私の顔に何かついてる?」
「ああ、いや…大人になったんだなぁって…」
同じことを思ったのか、イチハラがひきつりながら言った。
「はあ? 何それ? 親戚のオジサン気取り?」
サトミはケタケタと笑った。
「…ああ、それともサトミ菌でもついてました?」
サトミの言葉に俺たちは固まった。
『おい、触んなよ! サトミ菌が移るだろ?!』
『みんな、気を付けろー? サトミ菌が移ると、足がおかしくなるぞー!』
『きったねー! エ~ンガチョ、エンガチョ!』
そう言ってゲラゲラ笑っている、俺たちの幼い姿が脳裏に浮かんだ。
続く