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2019年11月30日

ISUが演技構成点改革へ

 フィギュアスケートの採点は分かりにくい。ジャンプやスピン、ステップの技術だけでなく芸術を含めて競うスポーツであるだけに、特に芸術性を内包する表現力の採点にはしっくりこない感覚が大なり小なりつきまとう。五つの項目を各10点満点から0.25点刻みで評価する「プログラム・コンポーネンツ・スコア(演技構成点)」にはジャッジの主観が入り込む余地が大きく、ジャンプの基礎点のような数字による明確な規定がないこともあり、点数の根拠を説明しづらい。

 

 国際スケート連盟(ISU)も演技構成点の採点に改善の余地があると考えている。10月の理事会で作業部会を設置して改革へ動きだした。シングル、ペア、アイスダンス、シンクロナイズドの各種目の専門家が集まって現状を検証し、必要なら北京五輪後の2022年総会に変更案を示すという。具体的な議論はこれからだが、ISU幹部は「演技構成点の項目が多過ぎるかもしれない。採点するための基準や尺度も多く、五つの項目の間で重複し過ぎている」と私見を述べた。

表現と芸術、基準多過ぎ

 演技構成点はスケーティングスキル、トランジション、パフォーマンス、コンポジション、インタープリテーション(・オブ・ミュージック)の5項目に分かれ、和訳すればスケーティング技術、技のつなぎ、演技、構成、音楽の解釈。スケーティング技術なら「流れと滑り」など、シングルでは各項目について三~六つの尺度があり、5項目で計23もの基準に照らして採点する。ISU幹部は「人間の脳で、これほど多くの基準を全て網羅して採点することは可能だろうか。それこそが作業部会が調査する論点だ。多過ぎると判断したら減らすことになるだろう」と語った。

 

 ジャッジは5項目の演技構成点だけでなく、短い時間でジャンプとスピン、ステップの出来栄え点(GOE)も付けなくてはならない。ISUはかつて、演技構成点と技術点を別々のジャッジに評価させることも検討したが、より多くのジャッジを抱えると経費もかさむことなどから断念したという。別の関係者によると、演技構成点を3項目に減らす案が浮上したこともあった。

ジャッジすら区別付かず

 スケーティングスキルは他の四つとの区別が明確だ。評価尺度は①ディープエッジ、ステップ、ターン②バランス、リズミカルな動き、足の運びの正確さ③流れと滑り④パワー、スピード、加減速の多彩さ⑤あらゆる方向へのスケーティング⑥片足でのスケーティング―の六つ。あるベテランの国際ジャッジは「そのスケーターが持っている基本的な力(の評価)に限りなく近い」と説明した。一方でフィギュアスケート界には、コンポジション(かつては「コリオグラフィー(振り付け)」と併記)とインタープリテーションの区別が付きにくいという声がくすぶり続けている。

 

 前出の国際ジャッジは「音楽をどう表現するかというとき、インタープリテーションは音の構造に動きが物理的に合っているかというニュアンスに近く、コンポジションは何を表現しようとしているかを見る」と言う。フィギュアスケートでよく使われる曲のパイレーツ・オブ・カリビアンを例に「音に合っていても動きが海賊に見えなければ、インタープリテーションは評価できるが、コンポジションは評価できない。見るからに海賊を表現しているが音からずれていれば評価は逆になる」と解説してくれた。この違いを若いジャッジが把握しきれていないケースもあるという。

「バズワード」で言い換え?

 演技構成点改革の狙いについて、ISU幹部は「会場や映像でフィギュアスケートを見る人にとって分かりやすいこと。なぜこの結果になったかを理解しやすくなるように」と語った。ただ、ジャッジにすら認識が難しい評価基準で採点をしても、見る人には伝わらない。項目数や各項目の採点尺度を減らせばジャッジの負担は減るかもしれないが、分かりやすさにつながるだろうか。

 

 ISUはある時期、ジャッジセミナーなどで演技構成点の5項目への理解をより深めるために「バズワード」のような発想で言い換える取り組みをしていたという。米国の元国際ジャッジでピアニストのジョー・インマン氏らが考案し、5項目をバランス、コネクション、デリバリー、デザイン、フィーリングと言い換えていた。表層的な分かりやすさを求めるというなら、これは悪くない。(時事通信運動部・和田隆文、2019年11月30日配信)