私が5年生の9月から孫の勉強を見だした時、8月までの理科の学習で何が苦手か孫に聞いたところ、植物、地層、天体など幾つかの単元を口にしました。電気はどうなのか確認すると、自信を持っているようでした。電気の学習内容は電気回路であり、そこでは豆電球や乾電池に流れる電流の大きさが問われます。直列回路や並列回路の基本的理解が前提ですが、問題の解法パターンが割とはっきりしているので、孫にとって対応しやすいのだと思いました。

 

ただ、注意すべき点がありました。テキストは小学生の知識レベルに合わせた説明になるため、どうしても本質的な理解には至りません。中学受験ではそれで十分ということでしょうが、問題も生じます。例えば、豆電球の並列回路ではそれぞれの豆電球が別々の回路と考えさせて電流を求めます。これはこれで構いませんが、なぜ別々と考えてよいのかを理解しないと、並列回路=別々の回路と誤解してしまう恐れがあります。そうならないような深い理解となると高校物理になりますから、結局はテキスト通りの説明で済ませました。

 

6年生の学習になると複雑な回路つまり直並列回路がでてきます。もはや並列回路の豆電球は別々の回路ではなく、回路全体の抵抗を求めないと電流は求まりません。つまり合成抵抗の考え方が必要になります。テキストでは豆電球の並列回路に流れる電流から抵抗がどうなっているか先ず理解させ、それを基に合成抵抗を求めさせています。私たち大人のように合成抵抗の計算式を使う訳ではありません。したがって、問題を素早く解くためには、代表的な回路パターンについて合成抵抗を覚えておく必要があります。

ところが、孫はどうもそれらの合成抵抗を忘れがちでした。そうしたことから、合成抵抗の計算の仕方を教えて欲しいと言うようになりました。本来はしっかりと覚えるべきなのでどうしようか迷いましたが、教えることにしました。もともと孫はこういった計算式に興味を持っており、すぐに覚えましたが、これはあくまで忘れた時の保険であると言い聞かせました。

 

電気は小学生にとって理解が難しい面があります。かといって、理解を深めるためにテキストにない教え方(例えばキルヒホッフの第2法則を含んだもの)を試みたとしても、中途半端に終われば逆効果です。天体の学習のようにあれこれ工夫しながら教えることもなく、テキストに書いてあることをとにかく覚えさせる、必要に応じて適宜解説するというのが私の方針でした。電気に関心があった孫は覚えることに抵抗を感じなかったようであり、これでよかったと思います。

昨年の9月以来、現在の時間の流れに合わせて、5年生の9月~、6年生の9月~というように過去を振り返ってきましたが、これからは以前のように個別テーマで書きつづっていきたいと思います。今回は理科の単元から月を取り上げます。

 

前に書きましたが、5年生の8月までに学んだ単元のうち、孫は天体に苦手意識を持っていました。孫の話では特に星と太陽に自信がないということなので、月は後回しにし、冬休みに時間をとって星と太陽の学習に取り組みました(これに関しては、「5年生の12月、冬休み」「5年生の冬休み」にまとめてありますのでご参照ください)。月は5年生の最後と6年生の春期講習で復習的な単元学習があり、5年生の時のテキストも活用しながら理解を深めさせるよう努めました。

 

月の学習でポイントとなるのは月の形と見える時刻・方位の理解ですが、月の公転図を基にしたテキストの説明を孫が理解できていたので安心しました。テストの出題で月の公転する様子が書かれていている場合には、すぐに時刻を書き入れるようにさせました。問題となるのは公転図が書かれていない場合です。テストは時間との勝負であり、問題用紙にわざわざ公転図を書くのは時間のロスです。公転図がなくてもすぐに解けるようでなければなりません。それには、月と太陽の位置関係で月がどう見えるかを頭に叩き込んでおく必要があります。

 

もちろんテキストに説明がありましたが、どうも孫は覚えにくいようでした。私は0度、90度、180度の法則と名付けて孫に覚えさせることにしました。新月は0度、満月は「菜の花や月は東に日は西に」で180度、月の南中時を基に右90度が上弦、左90度が下弦という具合です。孫に太陽はパー、月はグーにして伸ばした両手で角度を作らせ、角度を保ったまま体をねじって何時頃に何の月がどの方角に見えるか確認させました。孫が納得いくまで繰り返しです。日食で太陽が右から欠けることも覚えにくかったので、太陽が月を追い越しながら西に移動する様子について、孫は両手を使って何度も動きを確認していました。他にも動作をしながら覚える場面が幾つかありました。

 

天体の動きはなかなかイメージしにくいものです。覚えなければならない知識は山ほどあり、私は何とか覚えさせよう必死でした。涙ぐましい努力とも言えますが、このように体を使って覚えるのは非常に効果的であり、テスト結果にも反映されました。「絶対に忘れちゃだめだぞ」という私のかけ声に応え、ラジオ体操さながらに一生懸命取り組んでいた孫の姿は忘れられない思い出の一つです。

理科は物理・化学・生物・地学の4分野にわたって多様な内容を扱うため、テーマによってどうしても興味のありなしが生じます。あまり興味がないテーマだと敬遠してしまって苦手につながりがちです。孫の場合はまさに植物がそうであり、入試で頻出単元の一つである植物を苦手とするのは困った問題でした。同じく苦手とした天体の場合は事情が異なります。孫が天体を苦手にしたのは理解が難しかったのが要因であり、天体への興味はありました。学習意欲は高く、冬休みの取り組みで成果は上がりました。しかし、植物の場合、限られた時間でどこまでやれるのか自信がもてず、とりあえず平均レベルまでの学力アップを目標にしました。

 

5年生の植物の学習では、前期の始め頃に種子・発芽、呼吸、光合成などが、夏期講習で花のつくりと受粉があります。新6年生の平常授業と土特の学習内容は5年生で学んだことの再学習といった感じでしたが、苦手としてしまった上に時間が随分と経っており、孫にとってはゼロベースからの学習に近かったと思います。植物の勉強の中心はとにかく覚えることであり、ひたすら暗記です。孫が効率的・効果的に暗記できるように工夫するのが私の役目であり、そのための資料作りに腐心しました。植物で学ぶ多くのことが私には始めての知識でした。戸惑いつつも新鮮な気持ちで事に当たりました。

 

資料の一つはテキストを基にしたもので、掲載されている図で暗記が必要と思われるものを切り貼りして作りました。できるだけ資料の枚数を少なくし、しかも覚えやすいようにしなければならず、様々な図を拡大・縮小してうまくレイアウトするのが大変でした。この資料は基礎知識を固めるのに役立ったと思います。もう一つは植物の分類表です。植物の分類表の基本的なパターンは決まっていますが、覚えなければならない知識・情報を判断し、そしてそれをどう覚えやすく書き入れるかが結構難しいところです。孫のアイデアも取り入れながら作り、その後も適宜手を加えました。孫が勉強に使っていたテーブルとビニールカバーとの間にずっとはさんでおき、植物の学習の際に活用した思い出深い資料でした。

 

このように資料を作って平常授業と土特の学習に励みましたが、この時間だけではやはり限界があり、苦手から完全に脱却するまでには至りませんでした。ただ、テストで植物が出題された時に過剰に意識することはなくなったようでした。後は苦手克服の最後のチャンスである夏休みに集中的に取り組もうと決めました。
植物はとにかく覚えることが多く、しかもなかなか覚えられないものです。暗記中心の勉強は根気が続かず、孫はしばしば音を上げていました。ずっと後になりますが、SS特訓に入ってからは覚えることがさらに増えて対応が難しくなり、志望校の選択に影響を及ぼす事態となりました。この時点では予想だにしませんでした。

1月半ばの新6年生組分けテストであまりに国語の成績がふるわず大きなショックを受けました。このままでは危ういと痛感し、前に書いたように読解に手を打たねばと舵を切りました。孫はと言えば、好きな算数で偏差値が66.6と好成績だったせいか、国語の不出来にがっかりはしていたもののどうも危機感が足りません。1月末の復習テストでは「国語は何とか平均点をとれ」と孫に発破をかけました。結果はまさにほぼ平均点となり、4科で偏差値は60を超えました。ほっと胸をなで下ろしましたが、国語はとても安心できる状態ではありません。

 

2月7日に新6年生の授業がスタートしていよいよ勝負の1年間となり、平常授業に土曜志望校別特訓(土特)が加わって学習量が大幅に増えました。我が家にとって大事な土曜日の午後が塾通いになり、学習をこなすためにどう時間を確保するかが大変でした。土特への全般的な対応については、「土曜志望校別特訓について(1)」「土曜志望校別特訓(2)」にまとめてありますのでご参照ください。
2月はテストがなく3月に組分けテストとマンスリーがありましたが、偏差値は50台前半と物足りない結果でした。算数の出来があまりよくなかったことが影響しました。思うように成績が上がらず焦りを感じましたが、この時期はまだ先があるという気持ちを持てたと思います。

 

理科の学習で孫が特に苦手意識を持っていたのが植物と天体でした。これは私が孫の勉強を見始めた5年生9月からの懸案であり、天体は冬休みに集中的に取り組めましたが、植物は残ったままでした。それが2月の平常授業と土特で2週にわたって植物がテーマとなったのです。カリキュラムが異なる平常授業と土特で、同時に植物を学習できるのは大助かりでした。「この機会を活かさなくてどうする」と孫ともども気合いを入れて取り組むことにしました。ただ、問題がありました。孫は植物にあまり興味がなくて苦手としたのですが、私も正直なところ植物に関心が薄く、さしたる知識は持ち合わせていなかったのです。

 

昔スイスを訪れてバスで目的地に向かう途中、家々の窓辺に飾ってあるきれいな赤い花を目にしました。それもほとんどすべての家なのですから美しい限りです。鑑賞目的だけではなく虫よけの役割もあるとガイドから聞き、「なるほどうまい考えだな」と感心しました。帰国して妻に話すと、「何言ってるの?うちにもあるわよ」とあきれられました。ずっと前から妻が育てていたのです。触れると独特のにおいがついて私がいつも閉口していた赤い花、それがゼラニウムでした。植物に無関心のそしりをまぬかれません(笑)。こんな私が受験勉強で孫に植物を教えられるのか……。

 

(つづきます)

長男と孫は慶應中等部の試験からの帰路でした。Webで合否確認し連絡をくれたのです。早実合格を伝える孫との会話はあっけなく、「じいじ嬉しい?」に「もちろんだよ。よかったなあ。本当に嬉しいよ」と応じ、二言、三言あった後「よかった。よかった」、「じゃあね」で終わりました。もっと話したかったのですが、言葉に詰まって気の利いたことは何も言えませんでした。合格が分かった時の様子を後で長男に聞くと、嬉しさのあまり人目もはばからずに「やった!」と喜び合い、孫は「これで終わった!」と解放感で一杯だったようでした。「まだ終わっていないのに」と苦笑させられましたが、情景が目に浮かぶようでした。

 

早実合格を知り、私は全落ちがなくなった安堵感にしばらく浸っていました。3校のうち1校でもと願っていたのが現実となり、こうなると欲がでてきます。湘南藤沢と中等部で合判の志望校判定は同じでしたが、過去問との相性は中等部の方がよかったのは確かです。合格最低点が分からないのではっきりとは言えませんが、受かるならば中等部の方かなと前々から思っていました。早実に受かったことで心に余裕ができ、どうなるのかという不安感よりも期待感の方が高まりました。今日の試験の出来はどうだったか気になるものの、結果を落ち着いて待つことができました。

 

2月4日午後、中等部一次合格の知らせを受けました。「よくやった。孫も本当によく頑張ったな」としみじみ思いましたが、まだ道半ばです。次は体育実技と面接の二次試験です。中学受験の面接は参考程度であって合否にほとんど影響しないという見方が一般的ですが、おろそかにはできません。ただ、筆記試験を通っての話なので、あまり準備に時間をかける気にはならないものです。ある程度準備して大きな失敗をしなければよいのではと思っていました。11月中旬にサピで面接模試があり、孫はよい評価を受けていました。その後長男が作った想定質問で練習するのを見たことがありましたが、孫の受け答えが結構うまいので感心しました。慶應中等部は親子面接であり、親子で受け答えにずれがないようにするなど、練習に一苦労あったようです。一方、体育実技となると準備も何もありません。

 

2月5日、二次試験が終わりました。長男に様子を聞くと、体育実技も親子面接も特に問題なく済んだとのことでほっとしました。せっかくここまできたのだから、何とか最後の関門を突破して欲しい……。

 

2月6日午後、孫は慶應中等部に合格しました。早実の時と同じように長男と孫はサピの校舎に報告方々お礼に行きました。塾長から「よくぞ勝ち取ってきた」と言われたようで、二人とも感激したことは言うまでもありません。私は合格の知らせを受け、「とうとうやったか」という達成感で心が満たされました。「私を信じてついてきてくれている孫のために精一杯頑張らねば」というのが、この1年半の私のすべてであり、「もし合格しなかったらどうしようか」と責任の重さに押しつぶされそうな苦難の旅路でした。それがこんな風に報われたのですから。教材類や資料がそのままになっている居間を見渡した時、孫と勉強していた日々の笑い、泣き、怒り、喜び、悲しみ、いろいろな場面が頭をかけめぐり、胸が熱くなりました。寂しさも募りました。もうそんな日は来ないのだ……。
受験が終わってからしばらくの間、孫が何かの拍子に「じいじ、僕頑張ったよね」としみじみとした口調で漏らすことがありました。その言葉に中学受験での孫の苦闘が凝縮されていますが、いずれ、これから送る長い人生の単なる1ページに過ぎなくなるでしょう。それでよいのです。しかし、私の人生にとって、この1年半はいつまでも鮮明な思い出として残り続けることでしょう。