「ありあまるほどの、幸せを」 275 | 空に揺蕩う 十時(如月 皐)のブログ

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『あなたにばかり背負わせてしまったわね。ごめんなさいアシェル。でも、もう良いの。だから、一緒に行きましょう?』

 おいで、と母は二歩、三歩と後ろに下がる。

『久しぶりに、お母さまとお茶をしましょう。ほら、あちらにとっておきのお茶を用意したのよ? アシェルの大好きなお菓子もあるわ。アシェルはいっぱい頑張ってくれたんだもの。ご褒美もいっぱいあげないとね』

 母の指さす方に視線を向ければ、そこには美しい白のテーブルがあった。母が愛用していた可愛らしいティーセットに、アシェルの大好きなお菓子たち。周りは柔らかで美しい花々に囲まれて、そこはとても心地よさそうだ。

 まるで陽だまりのようなそこに行こうと言われ、アシェルは子供のように頷く。一歩、一歩と後退りながらアシェルを誘う母について行こうとした時、ガタンと大きな音がしてアシェルの身体が頽れた。

『アシェル、行きましょう』

「お母さま、待って。待ってください。足が動かないのです」

 どうしてだろう、足がピクリとも動かない。立ち上がることもできず、アシェルはペタンと座り込んだままだ。

『アシェル』

 身体を立たせることができないのに、母は優しく微笑みながら遠ざかっていく。それが嫌で、胸が張り裂けてしまいそうで、アシェルは泣きそうに顔を歪めながら手をつき、ズルズルと下半身を引きずるようにして這った。

 待って、待ってと必死になりながら母の姿を追いかける。求めるよう無意識に伸ばしたアシェルの手が、優しく包み込まれた。