「ご存知ないようですから、教えてあげましょう」
押し切ろうとする刃の力を流し、素早く身を翻して背後から襲い来る刃を避ける。振り向きざまに刀を弾き、その腹部に柄をめり込ませた。
「戦う力を下さったのは紫呉様です。何があっても、自らを守れるように」
生きろと、自らと大切なモノを守れる力を与えてくれた。
「薬を煎じる知識は優様が与えてくださった。時に金百両よりも価値があるそれは、生かすために」
毒にも打ち勝ち、生きる糧を得られるように。
「そして何より、今の私があるのは弥生兄さまが手を差し伸べてくださったから。自由に、思うまま羽ばたけるように」
優しさを、温もりを、自由を教え、与えてくれた。虚無の中に光る、一筋の光だった。
「大儀など知りません。私にはどうでも良いことです。あなた達にとって衛府が、春風家が悪であったとしても、私にはそうではない。ただそれだけのこと」
刃が肩を貫く。眉間に皺を寄せた雪也は、しかし倒れることは無い。こんな痛みなど、何ほどのものか。
「私たちに手を差し伸べてくれたのは、生きる術を与えてくれたのは、愛情をおしえてくれたのは彼らだ。あなた達じゃないッ!」
それだけと人は言うだろうか。たかがそんなものと国の未来を天秤にかけるのかと。だが雪也には、それこそが譲れない理由なのだ。