「ありあまるほどの、幸せを」 168 | 空に揺蕩う 十時(如月 皐)のブログ

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 雨を気にしたエリクは、ロランヴィエルの屋敷から一番近い、安価で庶民にも親しまれている店を選び、慎重にアシェルを車椅子に降ろす。途端に、アシェルは目についた菓子を手に取った。

 あれも、これも、どれも美味しそう。あぁ、どれだけお金を持ってきたのだったか。全部、ぜんぶほしい――。

 無言のままに菓子の入った紙包みを手に取っては抱え込むアシェルを痛ましげに見て、エリクはそっと近づいた。

「アシェル様、今日の夕食後のデザートは料理長が焼き上げたケーキの予定です。このお店の菓子はあまり日保ちもしませんから、食べきれないほど買っては無駄になってしまいます。御入用なら私がまた買ってまいりますから、今日はこのくらいで。早く帰ってお食べにならないと、ケーキが食べられなくなってしまいますよ」

 エリクの声も聞こえぬとばかりに無心で菓子の紙包を手にしていたアシェルは、早く帰って食べるという言葉にピクリと反応をしめした。

 そう、食べたい。早く食べたい。

 ようやく動きを止めたアシェルに、この時を逃してはならぬとエリクは車椅子を動かし、そっと刺激せぬようアシェルの手から菓子を取って後ろに付き従っていた使用人に渡す。アシェルを馬車に乗せて、雨が降らぬうちにと屋敷に走らせた。