「ありあまるほどの、幸せを」 129 | 空に揺蕩う 十時(如月 皐)のブログ

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「父上、アシェルは照れているだけですからお気になさらず。それより、どうぞ中へ。あと一刻ほどで顔合わせのお茶会が始まりますが、それまでは中で寛いでください」

 今回の茶会は国王夫婦も参加する。身内の集まりとはいえ、そう気を緩めることもできないのだから今のうちに休んでおいた方が良いとの配慮にリゼルは頷き、使用人たちが次々と荷物を下ろしている馬車を振り返った。

「領で土産を幾つか買ってきた。後で部屋に届けさせるから、二人で楽しみなさい」

 土産というには随分と量が多い、とボンヤリ思いつつ、アシェルはとりあえずありがとうございますと頭を下げた。リゼルが優しく微笑み頷くのを見て、彼が随分と息子を溺愛しているのを知る。やはりどんな噂をされようと我が子は可愛いのだろう、などと思っていれば、いつの間にか後ろに回ったルイに車椅子を反転された。

「我々も部屋で少し休憩しましょう。準備は使用人が完璧にしてくれますから何も心配することはありませんし、父も気ままに過ごすでしょうから」

 わざわざ領地からやって来たリゼルを放置で良いのか? とアシェルは疑問に思うが、リゼルからすればこの屋敷は勝手知ったる場所で、案内もいらなければ使用人も知っている者達が多く困ることもない。そうであるならば側に人が居るより、独りでいた方が気がやすまるのだろうか、と疑問は胸の内に仕舞いこんで何を言うこともしなかった。