「ありあまるほどの、幸せを」 127 | 空に揺蕩う 十時(如月 皐)のブログ

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 リゼル公爵は唯一の息子を避けている。それが昔から貴族の間で囁かれていることであったが、歳をとって丸くなったのか、あるいは何か親子の間であったのか、ルイに爵位を譲る時には既に和解していたらしく、王都の屋敷に着いたリゼルは世間が噂する何倍もの穏やかさでルイとアシェルに抱擁した。

「父上、お帰りなさい。長く馬車に乗られてお疲れでは?」

 以前はルイのように颯爽と馬を乗りこなしていたリゼルであるが、今は歳のせいか、あるいは彼の愛馬が寿命で儚くなってしまったからか、移動は馬車を使っている。いくら公爵家の馬車はあまり揺れがなく、領地も王都に近い位置であるとはいえ、老体に馬車の移動は堪えるだろう。だがリゼルはそんな息子たちの心配をよそに、まったく疲れを見せず笑っている。

「いや、息子の伴侶殿にようやく会えるのだ。この程度の距離など些末なことよ」

 その胸の内を知ることはできないが、どうやらリゼルは表面上であったとしてもアシェルに対して好意的であるようだ。唯一の息子の伴侶が子供の産めない男であることに対して何も思わないわけはないだろうに、彼はアシェルの前に立つと改めて小さく会釈をし、なぜかアシェルの手をとって口づけた。