「ありあまるほどの、幸せを」 122 | 空に揺蕩う 十時(如月 皐)のブログ

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「ルイ、です」

「……知ってるが」

 流石に二回も繰り返されれば何が言いたいのかアシェルも気づかざるを得ないが、素直になるのも嫌で少しズレた返しをする。ルイはもちろん、アシェルにとっても何の得にもならないその意地に、ルイは小さくため息をついてアシェルの胸に顔を埋めた。

「もう何度も何度も何度も〝ルイ〟と呼んでくださいと言っているのに、アシェルは気が付いたら公爵公爵、下手をすればロランヴィエル公爵と無駄に長々しく呼んで、意地悪ですね」

「…………」

 あの日、フィアナが余計なことを言った日からルイはアシェルが公爵と呼ぶたびに苦笑し、あるいは拗ねて〝ルイ〟と呼ぶように強請った。その時はアシェルも非常に弱い年下の甘えに名前を呼ぶのだが、結局はその時だけでいつの間にかまた〝公爵〟に戻ってしまう。もう癖なのだからいいではないかとアシェルは思うのだが、ルイは頑ななまでに直そうとしてくる。

「ルイって呼んでください」

 ね? とルイは胸から少し顔を上げて寂しそうにアシェルを見上げる。この顔にめっぽう弱いのだとわかりきっていての行動に、いつもなら流されるアシェルはフィッと顔を背けた。

「呼び名など、どうでも良いはず」