「ありあまるほどの、幸せを」 25 | 空に揺蕩う 十時(如月 皐)のブログ

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「そんなことを言っているから駄目なんだわ。もう事故から随分時間が経っているのだから、ダンスも頑張らないと。なんでも努力する前に諦めるのは良くないわ。ウィリアムだって、アシェルは甘えてるだけ、王妃様がアシェルを甘やかしてるだけって言っているもの」

 淀みない彼女の言葉に、肘掛けを掴んでいた手にギリッと力が籠る。

 甘やかす? 甘やかしてるだって?

 アシェルが事故にあった時、ウィリアムやメリッサが何をしてくれたというのだ。心配し、駆け付け、その無事を祈ってくれたのはジーノであり、フィアナだ。医者から足は動かないと言われた時、真っ先にフィアナが動き、まだこの国には浸透していない車椅子を用意してくれた。金を払わなければというアシェルに、まだまだ改善しなければならないことは多いから、使い心地を調べることに協力するという名目で、与えてくれた。だがアシェルはわかっている。その名目はアシェルを納得させるための方便で、実際はフィアナが自分に与えられる禄を使ったのだろう。これは王妃が自由に使える金であるから何に使ったとて咎められることではないが、ドレスやら宝飾品やらもこの禄から賄っていると考えれば、妹に身銭を切らせたに等しい。申し訳ないと思うが、車椅子という存在を知らなかったアシェルには、フィアナが用意してくれなければ寝台から出ることさえ叶わず、移動するにしても誰かに抱きかかえてもらわなければならなかっただろう。そうなれば今のように財務省で仕事をすることもできなかったに違いない。

 フィアナは妹として、助けてくれたのだ。兄を助けるために必死になってくれたのだ。その行為は、はたして本当に甘やかしであろうか?