温かそうな、ありふれた庵のように見えるが、もしや自分は居てはならない場所にいるのではないか。刀や着物を取り上げ丸腰にして、手当をして生かしたのは何が目的か。己の知っていることなどたかが知れているだろうが、決して尊皇を叫ぶ志士を許さず取り締まる衛府側からすれば、少しでも撲滅するためならば男を生かし情報を吐かせようとするかもしれない。どんな拷問にも耐える覚悟は家を出た時から持っているが、少しでも吐いてしまう可能性があるのならば、仲間のためにも今ここで舌を噛み切る方が良いのではないか。
グルグルと纏まらない思考に苛立ちながらも、とりあえず逃げるべきだと足に力を込めて立ち上がる。すぐに倒れ込んでしまいそうになる己を叱咤して辺りを見渡した。
流石に褌だけで外に出るのは憚られるし、刀も取り戻さなければならない。どこかに適当な着物は無いかと足を踏み出そうとした時、カタンと小さな音がして庵の扉が開いた。
「あ、起きてる……」
思わずといったように呟いた青年に男は鋭い視線を向けて、いつでも攻撃を防げるよう構える。今にも倒れそうだが、そんなことに構っている場合ではないと強く拳を握る。しかし青年はそんな彼に驚くでも構えるでもなく、のんびりと手に持っていた籠を下ろして優しい笑みを浮かべながら男に近づいてきた。