「お多恵さんなら、何もせずともお綺麗で、お可愛らしいですよ」
「あら、雪也ちゃんにそう言ってもらえるのは嬉しいねぇ」
着物を抱きながらニコニコと笑う末子に、雪也も微笑む。その時、カタンと小さな音を立てて、風呂敷を持った美しい女性が入って来た。
「あら、雪也さん。いらしてたのね」
雪也を見て頬を染めながらはにかむのは、先程まで話の中心にいた多恵だ。雪也は微笑み、小さく会釈してから立ち上がる。
「薬を届けに。でも、すっかり長居をしてしまいましたから、僕はこれで」
籠を持って去ろうとする雪也に末子はニコニコと手を振っているが、多恵は焦りながら雪也の腕を掴み引き留める。
「あ、あの、そんなに急いで帰らなくても……。お茶淹れますから、飲んでいってください」
店から饅頭も貰ってきたのだと言う多恵であったが、雪也は頷かない。困ったように微笑みながら、そっと多恵の手を外す。
「お気持ちはありがたいのですが、ごめんなさい。帰りに買い物をしてくると約束をしているのです。そろそろ行かないと、庵にいる皆がお腹を空かせてしまいますから」
半分嘘で、半分本当のことを告げる。だが、そんなことはどうでも良い事だ。末子だけならばともかく、未婚で年頃の多恵がいる場所に、長居をするつもりは無い。