「光 ~徳川家光が愛した女子~」 サンプル7 | 空に揺蕩う 十時(如月 皐)のブログ

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(誰か、いるのか?)

 どう聞いても素振りをしている音に聞こえるが、大人のそれにしては些か強さがない。ならば子供だろうか? しかしこの時刻に江戸城にいる子供など秀忠の子だけであろうはずで、男の子供は竹千代と国松だけだ。国松は先程見かけたのだから違うだろう。

 いったい誰がいるのだろうか。不思議に思って音のする方へそっと足を向ける。この先には秀忠が剣術指南役である柳生宗矩(やぎゅうむねのり)と共に稽古をする(いおり)があったはずだ。

 こっそりと庵のある方を覗き見れば、庵の側で国松と同じくらいの年であろう童が一人、木刀を振るっていた。飾り気のない地味な着物は決して高価そうには見えないが、汗だくになりながら木刀を振るう姿は凛々しく、子供であるのに大人のような覇気を感じさせる。

 近づこうと一歩踏み出した時、カサリと足音が鳴った。その瞬間に汗だくになって木刀を振るうことに集中していた童が勢いよく振り返る。

「だれだ!!」

 小さな身体であるのに、全身で警戒している様は立派だった。隠れているのもおかしいかと思って、竹千代は童の前に姿を現す。姿を現したのが子供であったことに驚いたのか、童は零れ落ちそうなほどに目を見開いて静かに木刀を降ろした。