📖 前回のあらすじ
田んぼでゲイラカイトを揚げる健一と竜二。しかし強風で糸が切れ、凧は「電線の墓場」へと消えてしまう。切ない余韻を胸に二人が公園へと向かう頃、公園の隅では別の「事件」が起ころうとしていた――。
第三十二話
三郎と美由紀のジョカリ特訓
同じ日曜日の午後。公園の隅では、片山三郎が一人熱心に汗を流していた。
「アチョーーーッ! ホワァッ!」
買ってもらったばかりのプラスチック製ヌンチャクをブンブンと振り回し、カンフーの特訓に励んでいる。
「三郎君、何してるの?」
不意に声をかけられ、片山は慌ててヌンチャクを構えたまま固まった。振り返ると、同じクラスの佐藤美由紀がクスクスと笑いながら立っていた。
美由紀も自分たちと同じ、現代の2026年から12歳にタイムスリップしてきた「中身は62歳」の同級生だ。
「さ、佐藤……! 見たら分かるやろ、ブルース・リーの特訓や!」
「ふふっ、相変わらずね。……見て、私も懐かしいもの持ってきたの」
そう言って美由紀が取り出したのは、重りのついた台座に長いゴム紐が伸び、その先に黄色いボールがついたスポーツ用具――当時アメリカから上陸して大ヒットしていた『ジョカリ』だった。
「うわ、ジョカリやん! 一人テニスができるやつ!」
美由紀は小さめの木製ラケットを構えると、ポンッとボールを打った。
ポンッ……ビューン……パシッ!
ゴムの伸縮で跳ね返ってくるボールを、美由紀はテンポよく打ち返していく。50年ぶりに握ったラケットだが、身体が12歳に戻ったおかげで驚くほどスムーズに動いていた。
「へえ……美由紀、案外上手いな」
「ふふっ、三郎君もやってみる?」
美由紀が笑顔でラケットを差し出す。だが、片山はプイッと横を向いた。
「ふん、俺はええわ。そんな子供の遊び」
「あ、もしかして出来ないの? 62歳にもなって失敗してカッコ悪いところ見せたくないんでしょー?」
同い年だからこその容赦ない突っ込みに、片山は青筋を立てた。
「な、何を〜〜っ! 俺はヌンチャクを自由に操る男やぞ! こんなん簡単じゃ、貸してみい!」
挑発にまんまと乗った片山は、美由紀から怒とうの勢いでラケットを引ったくった。
「見ておけよ! 俺は李小龍(ブルース・リー)や! 出来ないことなんて無いんや!」
片山は大きくラケットを振りかぶった。
「アチョーーーッ!!」
パコーンッ!!
「そんなに強く打ったらダメよ!」
佐藤が叫んだが、時すでに遅し。
力任せにひっぱたかれた黄色いボールは、ものすごい勢いで前方へ飛んでいき――ゴムが極限まで引っ張られ、猛烈なスピードで逆ロケットのように片山に向かって跳ね返ってきた!
(考えるな……感じろ、三郎……!)
片山がカンフーの達人気取りで静かに目を開けた、その瞬間。
ドカッ!!!
「ぐはっ……!?」
勢いよく戻ってきたボールは、片山の股間に寸分の狂いもなく直撃した。
「キャッ!? さ、三郎君ダイジョウブ!?」
美由紀が悲鳴をあげる。
片山は両手で股間をギュッと押さえ、顔を真っ赤にしながら公園中をぴょんぴょん跳ね回った。
「ワ、ワチャーーーッ!! ホー! ホーッ!!」