📖 前回のあらすじ

駄菓子屋「憩い」で『さくらんぼ餅』や『モロッコ風クリーム』を買い、昭和の物価安にしみじみ浸る薫と裕子。しかし店を出ると、股間事故を起こした三郎が近所の子どもたちをカルガモのように従え、「ワチャー!」と飛び跳ねている謎の光景に出遭遇するのだった――。



【第三十四話】

   10円新幹線ゲームの挑戦


「いや〜……もう大変やった。マジで息ができんかったわ……」

股間の激痛がようやく引き、ベンチにへたり込んだ片山三郎がハァハァと肩で息を吐いていた。

そこへ、田んぼから移動してきた健一と竜二が合流する。

「ジョカリはな、慣れるまで軽く打たないとえらいことになるんやで。……まあ、もう手遅れみたいやけどな」

竜二が三郎の股間をチラリと見ながらニヤニヤする。健一も呆れ顔で笑った。

「遠くから三郎の怪鳥音が聞こえたと思ったら、下級生たちと一緒に一列で飛び跳ねてるからビックリしたぞ!」

「後ろに子供達が来たの知らんかったわ。それどころじゃ無かったからな」

三郎が股間をさすりながら言った。

その言葉に、駄菓子を食べていた裕子、薫、美由紀の女子三人が一斉に吹き出した。

「「「あははははーっ!!」」」

「笑い事ちゃうで! 俺はマジで男じゃなくなると思ったんやからな!」

三郎が真っ赤になって抗議した、その時だった。竜二がふと駄菓子屋「憩い」の店頭に目を留めた。

「ん?……あれ、内田ちゃうか?」

店先の軒下に置かれたレトロな木製ゲーム機の前に、クラスメイトの内田が食い入るように立っていた。みんなでゾロゾロと内田の後ろへ向かう。

「君、誰やったっけ?」

竜二がいつものように白々しく聞く。

「同じクラスの内田や!!」

「三郎、知ってるか?」

「知らんな」

三郎までしれっと首を振る。

「もうええって、そのくだり!」

内田ががっくりと肩を落とした。健一がゲーム機を覗き込みながら尋ねる。

「何してんねん、ゲーム機の前で?」

「……これや。このゲームな、12歳の時、どうしてもクリアできへんかったんや」

ガラスケースの中には、日本地図と新幹線の路線が描かれていた。竜二が懐かしそうに目を細める。

「ああ! 十円玉を入れたら、その十円玉を左右のレバーで弾いて、落ちないようにゴールまで進めるやつやな! クリアしたら景品がポトンって出てくるやつ!」

「そうや! 東京から出発して、博多まで行けたら勝ちなんやけど……いつも途中の名古屋で落ちてしまうねん! もう今日だけで30円使ったけど全滅や……これが、最後の十円やねん、だからもうチロル買おうかゲームしようか迷ってるねん」

内田は握りしめていた小さな10円玉を、まるで宝物のように愛おしそうに見つめた。

50年の時を超えて、小学生の自分たちがやり残した「小さな悔しさ」に、再び決着をつける瞬間がやってきていた――。