📖 前回のあらすじ

学習発表会前夜。団地の台所でコロッケを揚げるオカンに、三郎は「明日、絶対に見に来てや」と62年分の魂を込めて頼み込む。家族がバラバラになる未来を知る三郎は、己の人生のすべてを賭けて「絶対にオカンの心を動かしてみせる」と決戦の明日を見据えるのだった――。


「学習発表会、大成功や!!」

幕が下りた瞬間、体育館は割れんばかりの拍手喝采と大歓声に包まれた。他クラスの生徒も、見に来ていた親たちも、みんな立ち上がらんばかりの勢いで惜しみない手を叩いている。

舞台袖に戻った瞬間、六年三組の連中は「やったなぁ!」「凄かったぞ!」と万歳三唱の嵐! 爽やか男の太陽も、いつも通りのまぶしい笑顔で三郎の肩を叩いた。

セリヌンティウスを演じきった俺(健一)も三郎と固い握手を交わし、興奮冷めやらぬまま全員で放課後の教室へと戻ってきた。

ガラガラッ!

引き戸が開いて大喜多先生が入ってくると、教室中のテンションは最高潮に達した。

「おい、お前ら! 聞いたか!」

大喜多先生は、いつもなら小脇に抱えている出席簿を教壇にドサッと置くと、その顔をこれ以上ないほどクシャクシャにして破顔した。

「職員室に戻った瞬間よ、隣の1組の先生からも教頭先生からもな、『おい大喜多! お前のクラスの劇、あれなんや! 小学生のレベルを超えとるがな!』って、めちゃくちゃ褒められたわ!」

大喜多先生は胸を張り、鼻高々で自慢げに鼻をこすった。普段は生徒に厳しい先生が、ここまで分かりやすく天狗になっている姿は、中身が大人である俺たちから見てもどこか微笑ましい。

「特にお前や、片山! あんな演技、どこで覚えたんや! 他の学年の先生まで見に来とったぞ。……お前、ほんまに凄かったわ。先生、見くびっとった。すまん!」

大喜多先生が豪快に頭を下げると、クラス中から「おぉーっ!」と大歓声が上がり、再び三郎に向けて惜しみない拍手が巻き起こった。

「先生、三郎だけやないで!」

俺が声を張り上げると、三郎も頷いてクラスのみんなを見回した。

「そうや! 陰で支えてくれたみんなのおかげや。音響を完璧にこなしてくれた内田、背景を描き直してくれた琢磨! 二人がおらんかったら舞台は成り立ってへんかった。ありがとうな!」

突然の名前指名に、内田は照れくさそうに頭を掻いた。

そして背景を描き上げた琢磨は、「ふん、まあな! 俺の映画看板職人としての血が騒いだだけよ!」とドヤ顔で鼻をこすってみせた。

(((……いや、お前が元・日活ロマンポルノ専門の看板描き師だったこと、もうクラス全員に完全にバレとるからな!!!)))

胸毛と髭面のセクシーな外国人男性を描いた時点で全員察していたのだが、本人が「俺はロッキーやダイ・ハードを描いてた!」と死んでも認めようとしないため、みんな大人な対応で黙ってあげているのだ。

当の琢磨は(ふぅ……危ない危ない。ロマンポルノの描き師だったことだけは、口が裂けても墓場まで持っていくぞ……!)と、100%バレているとも知らず、一人で心の中で固く誓いを立てていた。

三郎はさらに言葉を続ける。

「それに、見事な演出をつけてくれた浅野さんに、衣装と小道具を完璧に揃えてくれた薫ちゃん、全体の進行を仕切ってくれた佐藤さんに裕子ちゃん! 女子のみんなのプロ仕事がなかったら、俺は途中で挫けてたわ。ほんまにありがとう!」

三郎が頭を下げると、浅野さんや裕子たち女子グループも「もう、三郎くんたら!」と顔をほころばせ、誇らしげに拍手を送った。

そんな温かい空気の中、ふと横を見ると――「木の役」として最後まで舞台に立ち続けた竜二(宮本)が、どこか満足げな遠い目をして、小声でボソボソと呟いていた。

「♪この木なんの木……気になる木……見たこともない……木になるでしょう……」

(お前はまだ『木の気持ち』から抜け出せてへんのかい!)

俺と太陽が思わずズッコケる中、三郎はフッと静かに微笑み、大人の、本物の舞台役者のような深いお辞儀を返した。

その三郎の視線は、窓の外、校門へと続く夕暮れの道を歩いていく保護者たちの背中に向いていた。

人混みの中、まだ小さな弟の手を引いて、心なしかいつもより少し誇らしげに、背筋を伸ばして歩いていくオカンの後ろ姿が見えた。

(オカン、届いたか? 売れん大部屋役者の、これが精一杯の親孝行や……)

三郎は夕日を受ける窓ガラスに映る、自分の12歳の顔を見つめながら、心の中で静かに、だけど熱く呟いていた――。



小学生の頃、劇や合唱、学芸会などで舞台に立ったことはありますか?

先生に褒められたこと、セリフを忘れてしまったこと、友達と一緒に頑張ったこと……。


三郎たちの物語が、皆さん自身の12歳の記憶につながったら嬉しいです。

それでは次回の『六年三組のタイムカプセル』で
お会いしましょう
サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ

第一話はここから