📖 前回のあらすじ

大喜多先生に連れられて教室へ戻った俺たち。そこには、なぜか一人だけ先に席に座り、静かに微笑む「太陽君」の姿があった――。


【第7話】全員揃わなければ


「さあ、お前ら! 突っ立ってんと、さっさと自分の席につけ! 5時間目を始めるぞ」

大喜多先生の催促に、俺たちは慌てて動き出そうとした。だが、一瞬、足が止まる。

中身が62歳の俺たちだ。50年も前の「自分の席がどこだったか」なんて、記憶が曖昧でパッと動けないのだ。

みんなが戸惑って顔を見合わせ、お互いの席を探そうとキョロキョロし始めた、その時だった。

太陽君が、すっと席から立ち上がった。

「木暮君、君の席はここだよ」

太陽君は迷いのない足取りで歩き出すと、窓際の、後ろから二番目の机をトントンと指さした。

間違いなかった。俺が1976年のあの頃、確かに座っていた俺の席だ。

「宮本君は、その隣の列の一番前。片山君は、真ん中の列の後ろから三番目だよ」

太陽君はまるで、昨日もこの教室で一緒に過ごしていたかのように、39人全員の席を迷うことなく、一人一人丁寧に教えていく。

彼の透き通った声に導かれるようにして、クラスメイトたちは吸い込まれるようにそれぞれの椅子に腰掛けていった。

ガタガタと椅子を引く懐かしい音が教室中に響く。

全員が自分の席についたとき、俺は、あの無記名の案内状にあった言葉を、激しい鳥肌とともに思い出していた。

『全員揃わなければ、授業は始められません』

太陽君が静かに自分の席へと戻り、大喜多先生が黒板に向かって白いチョークを握る。

「よし、全員揃ったな。これより、5時間目の授業を始める!」

カツン、とチョークが黒板を叩く音が、静かな教室に響き渡った。

50年の時を超えた、俺たちの「人生のロスタイム」が、本当の意味で幕を開けた瞬間だった――。