📖 前回のあらすじ
学習発表会は大成功。三郎の演技は大喜多先生やクラスメイトから絶賛され、六年三組のみんなは大喜びだった。
そして三郎は、母親が人知れず涙を流していたことを知る。自分の演技が母親の心に届いたことを知り、三郎は胸いっぱいの感謝を噛み締めるのだった――。
📜 本編
学習発表会が終わると、卒業までのカウントダウンはいよいよ加速していった。
俺たちは、残された小学生としての日常を、一日一日を噛み締めるようにして過ごした。
日曜日、俺と宮本(竜二)、それに三郎の3人は、自転車を走らせて大和川へと向かった。
まだ3月の風は冷たく、川の水も透き通るように冷えている。パックから出した練り餌を丸め、竹竿の先に仕掛けを落とす、他愛のない川釣りだ。
現代の2026年なら、スマホをいじったりゲームをしたりしている時間。だけど、今の俺たちにはこの冷たい川風も、ウキがピコピコと水面に沈む瞬間の興奮が、どうしようもなく愛おしかった。
「おい健一! 引いた! フナや、小っちゃいけどフナ釣れたぞ!」
12歳の少年の顔で、中身は還暦越えの宮本が、鼻水を垂らしながら無邪気に笑っている。それを見て、俺も心の底から笑っていた。寒さでかじかんだ手を息で温めながら過ごすその時間が、たまらなく愛おしい。
ひとしきり遊んだ後は、いつもの駄菓子屋「憩い」での集まりだ。
10円の串ジャム、粉末の粉シトロン、クジ付きのチョコ。100円玉ひとつで王様になれたあの狭い空間に、松田(裕子)や水野(薫)も合流して、みんなで店の前のベンチに腰掛ける。
「懐かしいなぁ……このバサバサしたカツの駄菓子。現代のコンビニには売ってないよね」
水野が口元をすぼめて笑う。
そんな中、喉が渇いたのか、店の前の赤いコカ・コーラの自動販売機を眺めていた宮本が、首をひねりながら店の中に向かって声を張り上げた。
「おばちゃん! この自動販売機、『お茶』と『水』無いの?」
その瞬間――俺と三郎、そして女子たちの背筋にヒヤリと冷や汗が走った。
(((アホッ! 昭和五十一年にお茶や水のペットボトルなんか売ってるかい!!)))
店の中から出てきた「憩い」のおばちゃんは、何を冗談言ってるんだと言わんばかりに目を丸くして呆れ顔になった。
「はあ!? そんなもん無いわ! お茶やら水やら、そんなもん自販機に入れても売れへんわ! 水が飲みたかったら家帰って水道の水でも飲みや!」
「「「あ、あははは……! こいつ冗談言ってるんですよ、おばちゃん!」」」
俺と三郎は慌てて宮本の口を両手で塞ぎ、引きつった笑顔で必死にごまかした。当の宮本は「あ、そうか……昭和やった……」と後頭部を掻いて苦笑いしている。
駄菓子屋の軒先では、ギャラリー(六年三組の仲間)を引き連れ救世主内田がリベンジの10円新幹線ゲームのレバーを真剣な顔で睨みつけながらバチンと弾いている。その隣では琢磨が「次こそ当たりを出したる……!」と、10円ルーレットのどの数字に賭けるか頭を抱えて悩んでいた。
ふと目の前の公園に目をやると、美由紀ちゃんと阿部ちゃんが下級生たちに混ざって、ゴム紐のついたボールをラケットで打つ「ジョカリ」を楽しんでいる。
公園のベンチでは浅野さんが静かに本を読んでおり、他の六年三組のメンバーも、木陰で輪になっておしゃべりをしたり、キャッチボールをしたりして笑い合っていた。
(あーっ……ええなぁ、昭和五十一年。俺たち、こんなに仲良かったんやな……)
ベンチで駄菓子をかじりながら、俺は胸の奥がキュッと締め付けられるのを感じていた。
(なんで俺たち、2026年になるまで、一度も同窓会をしてへんかったんやろう……)
それぞれの人生の忙しさに紛れ、いつの間にか疎遠になってしまっていた仲間たち。だけど今、目の前にあるのは、間違いなく温かくてかけがえのない、愛おしい子供たちの時間だった。
おばちゃんが「あんたら、もうすぐ中学生やねぇ」と、お釣りのおまけに10円の丸いガムをみんなの手にもたせてくれた。
「これ持っていきな。中学行っても、たまには顔見せに来るんやで」
手に伝わる10円ガムの温もりと、おばちゃんの優しい笑顔。俺たちはみんな、胸の奥がキュンと切なくなった――。
💬 読者の皆様へ
本日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
大和川の川釣り、自販機にお茶や水がない昭和の当たり前、駄菓子屋の10円ゲームや「ジョカリ」で遊ぶ公園の風景……昭和51年のどこか懐かしく温かい空気が、画面いっぱいに広がりますね。
「こんなに仲良かったのに、なぜ今まで同窓会をしてなかったんだろう」という健一のつぶやきには、大人になったからこそ胸に深く刺さるものがあります。
それでは次回も『六年三組のタイムカプセル』でお会いしましょう。
サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ……!
第一回はここから
