📖 前回のあらすじ

卒業を前に大工仕事で疲れ切った竜二の父ちゃん。新グロモントのCM真似「ちかれたびー」でおどける父ちゃんに、竜二が湿布を貼って「ほっか、ホッカだよ」と返し、温かい家族の会話が生まれる。無骨ながらも家族を支える昭和の親父の背中に、竜二は心の中で深い感謝を捧げるのだった――。

📜 本編

六年三組の仲間と遊んだの夜。我が家(木暮家)の風呂の釜が壊れてしまい、俺たちは家族揃って近所の銭湯へと向かった。

高い天井、富士山のペンキ絵、カランの心地よい音。大きな湯船で身体の芯まで温まった帰り道、夜風が火照った顔に心地よく吹き抜けていく。

「あー、いい風呂だったなー!」

飲んだコーヒー牛乳の空瓶を空瓶置き場に置いて、父さんが気持ちよさそうに夜空を見上げた。

「本当、久しぶりに大きなお風呂に入ったら気持ちいいわねぇ」

母さんも満足そうに微笑んでいる。

「本当だな……」

(現代の2026年じゃ、もう銭湯なんて数えるほどしか残ってへん。こんな風に家族で銭湯の帰りに夜風を浴びるなんて、めちゃくちゃ貴重で贅沢な体験だよな……)

俺(健一)がしみじみと夜道を踏みしめていると、父さんがふと俺の顔を覗き込んできた。

「健一も、4月からはいよいよ中学生かー。ついこの間、小学校に入学したと思ったのになぁ。早いよな~」

「本当ねぇ。毎日バタバタしていたから、あっという間に時間が経っちゃったわね」

母さんも感慨深そうに頷く。すると父さんが「あ!」と何かを思い出したように手を打った。

「健一、覚えてるか? 夏休みに大阪万博行ったの。あれは……何歳の時だったっけ?」

「一年生の時よ、お父さん。自分の子供のことなのに覚えてないじゃないの」

「あー、そうだった! あの時、お前が迷子になったよなー! 手を繋いでいたはずだったのに、お祭り広場の近くがえらい混んでてさぁ。気がついたら俺、左卜全(ひだりぼくぜん)みたいなおじいちゃんと手を繋いでてびっくりしたぞ!」

「手の大きさが違うことにすぐ気づかない父さんに、僕がびっくりしたよ! 『違う人と手を繋いでるよ!』って後ろから何度も呼んだのに、全然気づかずに歩いていくんだもん」

「結局、迷子センターで再会して、本当に生きた心地がしなかったわよ」

母さんが呆れ顔で笑うと、父さんは楽しそうに話を続けた。

「万博の帰りの地下鉄の駅も大混雑でさ。今度はしっかり手を繋いでホームに降りて、振り返ったら……今度は左とん平みたいなおっさんの手を握ってたな!」

「もう! 何度も手の大きさがわからないから、僕

はお母さんと手を繋いでたから良かったものの!」

「そしたらその後、電車の中でウトウトしててさ。気づいたら最寄り駅で、『健一、降りぞ!』って手を繋いで慌ててホームに降りたら……雷門ケン坊みたいな子と降りていて、その子の親が慌てて追いかけてきて、えらい怒られたわ!」

「あの時は混んでたから、お父さんと離れて座ってたのを忘れてるお父さんが悪いんだよ!」

「そうだったな、ガハハ!」

「本当、おっちょこちょいなんだから……」

母さんが呆れながらもくすくすと笑う。

「でもまあ、今となってはいい思い出だよ。もう二度と日本で見られないような万博に行けて良かったよなぁ。東京オリンピックも行きたかったけどさ」

「でも、学校の友達にはあんまり自慢できなかったなー。アメリカ館もソ連館も、有名なパビリオンは待ち時間が凄すぎて……結局、あんまり人気のない国のパビリオンにしか入れなかったしさ」

「でもね、家族みんなで行けて私は本当に嬉しかったよ。人混みが大嫌いなお父さんが、頑張って連れて行ってくれたんだから」

母さんのその温かい言葉に、俺の胸の奥がギュッと締め付けられた。

(父さん、母さん……)

現代の記憶が頭を駆け巡る。

現実にいた未来では、父さんは2014年、母さんは2016年にこの世を去った。結局、2025年の大阪万博にも、二人を連れて行ってあげることはできなかった。

……それに、俺たちは卒業式が来たら、現代(2026年)へ戻ってしまうのだ。

この温かい昭和51年の日々も、あと少しで終わりを迎えてしまう――。

溢れ出しそうになる感情を抑えきれず、俺は足を止め、絞り出すような声で二人を見上げた。

「……次! また万博があったら……今度は僕が二人を連れて行くよ! だから……だからさ……絶対、長生きしてね!!」

突然真顔で叫んだ俺に、父さんと母さんは一瞬ポカンと口を開けたが、父さんがすぐにガハハと豪快に笑い飛ばした。

「よし! 母さん、100歳まで元気でいて、新・太陽の塔を見るかー!」

「そうねぇ、頑張って生きようかねぇ……って、ちょっと健一! なんで泣いてんだい? お風呂に入ったばっかりなのに、鼻水まで垂らしてさ!」

「なんでもない!! 絶対に……絶対に長生きしろよな!!」

俺が袖で目をゴシゴシと擦ると、父さんは胸をドンと叩いて、頼もしく笑ってみせた。

「ガッテン承知の助だ!」

街灯の下、3人の影が並んで揺れている。

(残された時間はあとわずかだ。現代に戻るその日まで……一瞬一瞬を大切にして、いっぱい親孝行するからな……)

鼻をすすりながら歩く俺の頭を、父さんのゴツゴツしたでかい手が、優しくポンポンと撫でていた――。


💬 読者の皆様へ

本日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

今回は風呂上がりの夜道で語られる「1970年・大阪万博」の爆笑思い出話と、両親への想いをお届けしました。

左卜全さんに続いて、左とん平さんや雷門ケン坊さんまで登場するお父さんの超おっちょこちょいな萬博エピソード! 昭和の熱気と混雑ぶりが目に浮かんで思わず笑ってしまいますね。


それでは次回も『六年三組のタイムカプセル』でお会いしましょう。

サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ……!


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