📖 前回のあらすじ


学習発表会は大成功を収め、大喜多先生やクラスメイトから三郎の演技に絶賛の声が送られる。

琢磨の隠し事や竜二の天然ボケに笑いが起きる中、三郎は仲間たちへの感謝を伝える。

窓の外で誇らしげに歩くオカンの後ろ姿を見送り、心の中で精一杯の親孝行を噛み締めるのだった。


📜 本編

学習発表会が終わった日の夕方。団地の玄関を開けると、弟の博(ひろし)が飛んで出迎えてくれた。

「にいちゃん! 今日の劇、めちゃくちゃカッコ良かったで!」

「当たり前や! 博のにいちゃんやぞ、カッコええに決まってるやろ!」

三郎は12歳の軽い身体で弟を抱き上げ、鼻高々に胸を張った。すると、台所から揚げ物の匂いとともにオカンの声が飛んできた。

「お帰り三郎。早よ手洗って台所手伝ってや」

拍子抜けするほど、いつも通りの素っ気ない態度だった。

「お、おう……オカン、劇……観てくれたん?」

洗面所で蛇口をひねり、手を洗いながらおそるおそる尋ねる三郎。

「あっ、観た観た。良かったで。ほら、早よ皿並べてー」

「えっ……それだけ……?」

皿をちゃぶ台に並べながら、三郎はガックリと肩を落とした。

「にいちゃん! 途中でブルース・リーみたいになって山賊と戦っとったのカッコ良かった! アチョーッ!」

(※弘子がセリフのテンポを演出する際、メロスが襲いかかる山賊をなぎ倒すクライマックスを少しダイナミックにアレンジしていたのだ)

弟は大興奮で拳を振り回しているが、オカンは淡々とキャベツの千切りを盛っている。

(オカン……俺、オカンのためにみんなと協力してあんなに頑張ったのに、全然響いてへんのか……?)

三郎の胸に、冷たい寂しさがこみ上げていた。

◇

翌朝、六年三組の教室。

「……おはよう、健一」

「おう、三郎! おはよう!」

「おはよう、太陽」

「おはよう、三郎くん!」

教室に入ってきた三郎の浮かない顔を見て、木の役を演じきった竜二が顔を覗き込んだ。

「三郎、どないしてん? 暗い顔して。オカンどうやった? めちゃくちゃ褒められたやろ?」

三郎はため息をつきながら、弱々しく首を振った。

「あかん……そっけなく『良かった』って言われただけや。ただ、それだけやった……」

すると、セリヌンティウス役を演じた健一が「えっ!?」と目を丸くした。

「嘘やろ!? うちの母親、三郎のお母さんのすぐ隣で観てたんやけどな……劇中ずーっとハンカチで目を押さえて泣いてたって言ってたぞ!」

「え……?」

「劇が終わった後、うちの母親が『三郎君、すごいですね』って声かけたらな、お前のお母さん、涙拭きながらこう言ってたらしいで。『ありがとうございます。あの子が……あの子がこんなに人を感動させられる子に成長してくれて、ほんまに嬉しいです』って」

三郎の動きが、ピタリと止まった。

「うちの母ちゃんも声かけたって言ってたで!」と竜二も身を乗り出す。

「『一生忘れられません』って、涙でぐしゃぐしゃになりながら笑ってたって!」

「私の母も言ってた!」「私の母も!」

裕子や薫、美由紀たち女子グループも一斉に頷いた。

「……えっ……そうなんや……オカン、そうやったんや……」

三郎の視界が、みるみるうちに熱いもので歪んでいく。

家では子供の前だからと、照れ隠しで大したことないフリをしていただけだったのだ。あのぶっきらぼうなオカンが、陰でどれほど自分を誇らしく思い、涙を流してくれていたか。

(オカン……おおきに……。売れへん大部屋役者だった俺の、これが最後の舞台になって良かった……!)

春の柔らかな日差しが差し込む教室で、三郎は溢れ出る涙を袖でゴシゴシと拭いながら、心の中で深く、深く感謝を捧げるのだった――。



 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

子どもの頃、親に褒めてもらいたくて、一生懸命に頑張ったことはありませんか?

でも、親の反応は意外とそっけなくて、少し寂しい思いをしたことも……。

今になって振り返ると、あの何気ない言葉や不器用な態度の裏にも、深い愛情があったのかもしれませんね。

皆さんには、子どもの頃の親との懐かしい思い出はありますか?

これからも、六年三組の物語をよろしくお願いします。

それではサヨナラ、サヨナラ、サヨナラ


第一話はここから