📖 前回のあらすじ

家で劇の練習相手を頼んだ健一は、父親に『走れメロス』を「走れエロス」と勘違いされる。竜二は父親と日立のCMソングを熱唱して「木の気持ち」を学び、母親を呆れさせた。翌日、背景画を描き直した琢磨だったが、セクシーな胸毛外人を描き上げ全員からロマンポルノの職人だと察せられる。結局背景は再やり直しとなり、本番に向けドタバタの練習が続くのだった――。


【第五十三話】            


 異次元の役者・片山三郎の叫び


衝突を経て、本気をぶつけ合った俺たちは、再び放課後の体育館へと集まっていた。

衝突していた時とは一転し、練習の空気は劇的に変わっていた。中身が大人である俺たちのバックアップは、まさに完璧の一言だったのだ。

元・大手出版社編集者の弘子(浅野)は的確な舞台演出をつけ、薫(水野)は衣装や小道具の準備を大人の圧倒的な手際でサポートしていく。

そして何より――舞台中央に立つ片山(三郎)の演技が、最初から完全に「異次元」だった。

「待て! 私は走っているのだ! 信頼されているから走るのだ! 間に合う、間に合わないは問題ではないのだ!!」

体育館の舞台の上で、12歳の少年の身体から、全身の鳥肌が立つような、地を誇り高く這うような太い声が響き渡った。

それは、台本のセリフをただなぞっているだけの小学生の劇などではなかった。

令和の時代、末期がんで病床に伏し、死線を彷徨った男の念。

テレビや舞台の裏方で生きてきた男の、そしてこの昭和五十一年で「もう一度家族をつなぎ止めたい」と切に願う男の、文字通り命がけの叫びが乗っていた。

パイプ椅子に座って練習を見ていた大喜多先生が、口に咥えていたタバコ(当時はまだ体育館で普通に吸えたのだ)を床に落としそうになりながら、呆然と三郎を見上げている。

「あいつ……なんや、あの演技は。ほんまに片山なんか……?」

あまりの気迫に、出番を待つセリヌンティウス役の俺(健一)も、そして舞台脇で「木の役」として立っていた竜二(宮本)も、完全に圧倒されていた。

「健一……あいつ、凄すぎるな……」

木のポーズをとったまま固まっていた竜二が、俺の耳元で震える声で小さく呟く。

「ああ。あいつは今、人生で一番のスポットライトを浴びてるんだ。斬られ役の大部屋役者なんかじゃない……本物の主役だよ」

俺は目頭を熱くさせながら、舞台の上で泥臭く、けれど誰よりも眩しく輝く片山三郎の熱演を、じっと見つめ続けていた――。



本日も最後まで読んで頂きありがとうございます。
三郎君の圧倒的な演技に皆んなが
必死について行こうとしています。
頑張れ六年三組!


それでは、また次回の『六年三組のタイムカプセル』でお会いしましょう。

サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ……!