📖 前回のあらすじ
熱血指導の末に衝突した三郎から「余命一ヶ月の過去」と「家族への想い」を聞かされた6年3組。クラスがひとつにまとまりかけたその時、担任の大喜多先生が登場。涙をごまかすため「涙は心の汗です!」と中村雅俊気取りで切り抜けるも、最後は三郎のズボンの尻が破れてパンツ丸見えになり、全員大爆笑で仲直りしたのだった――。
【第五十二話】 親父とメロスと、怪しい背景画
その日の夕方。健一の家に父親が帰ってきた。
「ただいまー、今帰ったぞ」
玄関で靴を脱ぎ、洗面所でジャバジャバと手を洗いながら、父親はご機嫌で鼻歌を口ずさんでいる。
「♪下駄を鳴らして奴が来る〜 腰に手ぬぐいぶらさげて〜」
(吉田拓郎がつくったかまやつひろしの『我が良き友よ』か。相変わらず選曲が昭和真っ只中だな……)
洗面所の前に立った俺(健一)が「お帰り」と声をかけると、父親はビクッと 肩 を跳ねさせた。
「えっ、た、ただいま健一。……なんや、改まって?」
「晩ごはんまでまだ時間あるから、ちょっと付き合ってよ」
「何を付き合うんだ?」
「学習発表会で劇をやることになってさ。僕のセリフの練習相手になってほしいんだ」
父親は「なんだ、そんなことか」と眉を下げてニヤリと笑った。
「いいけど、何の劇やるんだ?」
「太宰治の『走れメロス』」
「……『走れエロス』? お前、小学生がそんな破廉恥(はれんち)な劇やるのか!?」
「メロスだよ! どこをどう聞いたらそう聞こえるんだよ!」
昭和の親父らしいデリカシーの無さに、俺はガクッと頭を抱えるのだった。
◇
一方、同じ頃の宮本(竜二)の家では――。
茶の間でテレビの画面を見つめながら、父親と竜二がガッチリと肩を組んでいた。
「♪この木なんの木 気になる木〜」
「♪名前も知らない 木になるでしょう〜」
「♪見たこともない 花が咲くでしょう〜」
テレビから流れる『日立グループ』の有名なCMソングに合わせて、親子でノリノリで大熱唱している。
「ご飯ですよー……って、えぇっ!?」
夕飯の鍋を運んできた母親が、その光景に目を見開いた。
父親は竜二の肩をパンパンと叩きながら、満足そうに頷く。
「竜二! この歌さえしっかり覚えれば、お前も『木の気持ち』がわかるようになるぞ!」
「わかったよ、父ちゃん! 俺、立派な木になってみせる!」
親子で決意を固める姿に、母親はエプロンの腰に手を当てて「全く……似た者同士の親子だねぇ」と呆れ果てるのだった。
◇
そして翌日、放課後の教室。
「できたぞ! 背景、見事に描き直したぞ!」
元・映画看板職人の木村琢磨が、大きな模造紙を抱えてドヤ顔で教室に駆け込んできた。
「おおーっ! どれどれ、見せてみろ!」
三郎や健一たちが一斉に囲む中、琢磨が勢いよく模造紙を広げた。
「ジャーン! 今度は三郎の言う通り、女性じゃなくて『男性』にしたぞ! これならPTAからも文句ないだろう!」
「「「…………えっ???」」」
広げられた模造紙を見た全員が、一瞬で凍りついた。
古代ギリシャのシラクスの街並み……の背景の中央に描かれていたのは、濃い胸毛と髭を蓄えた外国人男性が、なぜかセクシーなポーズで流し目を送っている絵だった。
(((この男……絶対、成人映画専門の看板描き師だっただろ!!!)))
クラス全員の心の声が完全に見事に一致した瞬間であった。
結局、琢磨の背景画は「もう一回やり直し」となり、放課後の教室に琢磨の叫び声が虚しく響き渡るのだった――。
本日も最後までご覧いただき、本当にありがとうございました!
お父さんとのセリフ練習、テレビCM『この木なんの木』の一緒に大熱唱、そしてちょっとズレた職人のこだわり……昭和の家庭と学校の「クスッと笑える空気感」が蘇ってきたのではないでしょうか?