📖 前回のあらすじ
公園で一人ヌンチャクを振る三郎の前に、当時大流行していた『ジョカリ』を持った美由紀が現れる。美由紀の煽りに乗って全力でラケットを振り抜いた三郎だったが、強烈な跳ね返りボールが股間に直撃! あまりの痛みに叫びながら公園を跳ね回るのだった――。
【第32話】 駄菓子屋「憩い」とカルガモ行進
公園の近くにある、昔ながらの駄菓子屋「憩い(いこい)」。
薄暗い店内の棚には、カラフルな駄菓子やおもちゃが所狭しと並び、近所の子どもたちの賑やかな声が響いていた。
「あ、これこれ! 懐かしい〜!」
そう言って薫が手にしたのは、小さなプラスチック容器に十二個のピンクの粒が並んだ『さくらんぼ餅』だった。付属の爪楊枝で、ひとつずつちびちびと刺して食べるのがたまらなく楽しい。さらに薫は、大きなガラス瓶の蓋を開け、中に重ねられた香ばしい『塩せんべい』を一枚買い足した。
隣で裕子が選んだのは、赤い透明な三角ビニール袋にたっぷり入った香ばしい『ポン菓子』。
そして、もうひとつ――木のちいさなサジ(スプーン)で掬って食べる、象のイラストが描かれた小さなカップ入りのモロッコ風クリームだった。
「ふふ、裕子ちゃんそれ好きなの? 木のサジでちびちび食べるのが美味しいのよね」
懐かしいそうに薫が言った。
「うん! 現代ではすっかり見かけなくなったから、見つけた瞬間買っちゃった」
裕子が嬉しそうに目を細める。
駄菓子を手にレジへ向かい、10円玉を数枚おばちゃんに手渡しながら、裕子がしみじみと呟いた。
「それにしても……本当に安いよね。これだけ買っても、たったの40円だもんね。消費税も何もないし」
薫も手元のさくらんぼ餅を見つめながら深く頷いた。
「本当、安いよね……この頃は、100円玉ひとつ握りしめて来たら、まるで大金持ちになった気分になれたもんね」
令和の2026年では、10%の消費税や物価高が当たり前で、駄菓子屋そのものが街から消えつつあった。
しかし、ここ昭和五十一年には、10円玉数枚で買える「無限のワクワク」と、子どもたちの誰もが寄り添える温かな居場所が確かに存在していた。
「ねえ、あっちのベンチで食べよ!」
「うん!」
中身は六十二歳のニ人は、十二歳の少女の顔に戻って、色とりどりの駄菓子を手に「憩い」の暖簾をくぐった。
――すると。
目の前の公園の広場で、片山三郎がまだ両手で股間を押さえたままピョンピョンと跳ね回っていた。
「ワ、ワチャーーーッ!! ホー! ホーッ!!」
しかも、その三郎の後ろには、近所の小さい子どもたちが五人ほど「楽しそうな新しい遊び」と勘違いしたのか、一列に並んで「ワチャー! ホー!」と一緒に飛び跳ねている。
「……え?」
「三郎君……何やってるの、あれ……?」
あまりに謎すぎる光景に、薫と裕子は手に駄菓子を持ったまま、不思議そうにポカーンと口を開けて固まっている。
「大丈夫かしら……」と焦った美由紀だったが、あれだけ元気に声を張り上げて跳ね回っている三郎の姿を見て、「あ、あれなら命に別状はないわね」と62歳らしい冷静な確信に変わった。
心配が無用だと分かった瞬間、おかしさが限界突破し、美由紀はお腹を抱えそうになるのを必死で堪えながら、肩をプルプルと震わせて俯(うつむ)いて笑うのだった――。