📖 前回のあらすじ
昭和51年にタイムスリップした健一たち。かつての同級生たちと過ごす学校生活の中で、少しずつ「12歳の肉体」と「62歳の精神」のギャップに戸惑いながらも、昭和の日常へと馴染んでいく。そして、タイムスリップして初めての日曜日がやってきた――。
第二十九 宮本家と「違いがわかる男」
タイムスリップして初めて迎えた日曜日の朝。
宮本家の居間では、朝から賑やかな声が響いていた。
「お父ちゃん、ゲイラカイトありがとう! 今から健一と一緒に揚げに行ってくる!」
買い与えてもらったばかりのゲイラカイトを抱え、竜二(宮本隆)が玄関へ向かおうとすると、ちゃぶ台に座っていた父親がご満悦な顔で呟いた。
「♪ダバダー ダバダー……宮本隆41歳、職業 大工、違いのわかる男。……なんちゃってな」
当時子どもたちの間で大流行していた『ネスカフェ・ゴールドブレンド』のテレビCMの真似をして一人ごちると、父親はちゃぶ台の上の飲み物に手を伸ばした。……が、口をつける直前でピタリと動きを止めた。
「おい母さん、コーヒーを湯呑みで入れるんじゃないよ! コーヒーカップに入れないと……『違いのわかる男』だよ俺は!」
呆れ顔で台所から出てきた母親が、手に持った布巾を肩にかけながら即座に言い返す。
「何が『違いのわかる男』よ! あんたなんか何飲んでも味なんか分からないくせに!」
「な、何を言うか! 俺はな……あ、おい母さん! コーヒーにクリープが入ってないぞ!」
「えっ〜……いるの?」
めんどくさそうに首をかしげる母親に対し、父親は一転して重厚な渋い声を意識し、俳優・芦田伸介のモノマネで身を乗り出した。
「クリープのないコーヒーなんて……」
「じゃ、もう飲まなくていい!」
名台詞を最後まで言わせてもらえず、母親はフンと鼻を鳴らしてコーヒーを下げようとした。
「ごめんごめん! 飲む! 飲む飲む飲む! 次からお願いします……!」
さっきまでの「違いのわかる男」はどこへやら、一瞬で平謝りする父親の姿に、竜二はニヤニヤしながら玄関を飛び出した。
「行ってきまーす!」
日曜日特有の温かい昭和の家庭の匂いを背に受けながら、竜二は健一の家へと走っていくのだった――。