📖 前回のあらすじ

四時間目の家庭科は試食タイム。猫舌の三郎はお味噌汁の熱さに悶絶して「アチョーッ!」と叫び、ゆで卵を丸呑みしては黄身を喉に詰まらせて美由紀に怒られる。みんなで作って食べる楽しさを噛み締めながら、土曜日半ドンの終わりを告げるチャイムが響き渡るのだった――。


【第二十八話】          下校道の証明と、角川映画の予感


「さようならー!」

半ドンの授業が終わり、ランドセルを背負った児童たちが一斉に校門を飛び出していく。二月下旬の土曜日、正午過ぎ。冷たい北風が吹き抜ける校庭には、どこか解放的な熱気が満ちていた。

帰り道、俺(健一)、宮本(竜二)、三郎、そして太陽の四人は、白い息を吐きながら黄色い手袋を嵌めた手を上着のポケットに突っ込んで並んで歩いていた。

「しかし……五十年の時を経て算数の授業受けたけど、『図形の証明』とはな。全くわからんかったわ。大喜多先生に『前に出て解いてみろ』言われた時、俺、完全に固まったぞ」

宮本がランドセルのベルトを引っ張り直し、心底参ったという顔で首を振る。

「竜二が固まったお陰で、今度は俺が指名されて同じく固まったんだよ……冷や汗出たわ」

俺が苦笑いしながら振り返ると、後ろを歩いていた三郎が楽しそうに口を挟んできた。

「そのあと、太陽がスッと手を挙げて『答えさせてください』言うて前に出て、サラサラッと解いてくれたから助かったやんか!」

「ほんま助かったわ。そのあと先生に『お前らこのままじゃ中学生になれんぞ! 落第や!』って怒鳴られたけどな。今令和で言ったら一発でアウトのやつやで」

宮本が「恐ろしい時代やで」と笑う。俺は隣を歩く太陽の顔を覗き込んだ。

「しかし、太陽はよく覚えてるよな。小学生の算数の証明なんて……まさか向こうの時代で、学校の先生でもやってたのか?」

「うーん……まあ、そんなところかな」

太陽はいつものように、少し困ったような、どこか秘密めいた笑みを浮かべて言葉を濁した。

「すごいやん太陽! 俺なんか『図形の証明』は無理でも『人間の証明』ならできるで!」

三郎は急に足を止めると、胸に手を当てて朗々と歌い出し、大げさなアクションで大部屋役者の芝居を打ち始めた。

「〜母さん、僕のあの帽子、どうしたでしょうね? ええ、夏、碓氷から霧積へ行くみちで、渓谷へ落としたあの帽子ですよ……ママ〜、ドゥ・リメンバー〜♪」

真冬の路上で熱唱する三郎の頭を、宮本がすかさずピシャリと叩いた。

「アホか! まだ早いわ! 『犬神家』もまだ公開されてへんのに、角川映画の先走りすな!」

「痛った! 竜二、時代考証が細かいねん!」

頭を押さえる三郎と、ツッコむ宮本。二人のやり取りに俺と太陽は大爆笑した。

「明日は日曜日だな。朝からあそぼうや!」

「おうよ! 昭和の休日、思いっきり満喫したるからな!」

「今日は『全員集合!』見るぞ!5人揃う生コントは今は見れないからな!」

「俺は欽ドン!を見るわ『レコード大作戦』あれ面白いからなー

俺達と同じ年代の香坂みゆきも可愛いし」

吐く息を白く弾ませながら、62歳のおじさんたちは12歳の足取りで、賑やかに冬の下校道を歩いて行った――。