📖 前回のあらすじ
三時間目の家庭科実習。ご飯やお味噌汁が炊き上がり、ゆで卵を鍋から引き上げたその時、三郎が何をトチ狂ったか熱々のゆで卵を直手でキャッチ。「あち、あち、あちょーっ!」と怪鳥音を響かせ、美由紀から「冷水で冷ましなさい!」と激怒されるのだった――。
【第27話】 四時間目の試食タイムと、 昭和の放課後
四時間目、そのまま家庭科室での試食と後片付けの時間に入った。
全員のゆで卵がむき上がり、お茶碗につやつやのご飯と、湯気が立つ豆腐とおふのお味噌汁が運ばれる。
「よし、いただきまーす!」
宮本たちが美味しそうにご飯を口へ運び、お味噌汁をすする中、筋金入りの「猫舌」である三郎は、お椀を前にゴクリとツバを飲み込んだ。
熱いのは苦手だが、格好つけたい三郎。両手でお椀を持ち上げ、ふーフーと息を吹きかけもせずに一気に口元へ運んだ。
ズズッ……。
「……あちっ!! あち、あち, あちっ……アチョーッ!!」
口の中に広がった熱々のお味噌汁に悶絶し、お椀をテーブルに叩きつけるように置いて、三郎は激しく舌を出して手で扇ぎ始めた。
「ワチャァーッ! 舌ヤケドした! 舌が全滅や!!」
すかさず美由紀の冷ややかなツッコミが飛ぶ。
「……学習能力ゼロなの? 猫舌なら少しフーフーして冷ましてから飲みなさいよ!!」
「ほんまやぞ三郎、お前さっきから『アチョー』言いたいだけちゃうんか!」
宮本が追い打ちをかけて笑い転げる。
「ちゃうわ! ほんまに熱いねん!!」
半目になって涙目で抗議する三郎に、美由紀は呆れつつも「はいはい、お水飲んでな」と水道で汲んできたコップを押し付けた。
さらに三郎は冷水で冷やしたゆで卵に塩をパッパと振り、一口でパクリと口に放り込んだ。ところが――
「モグモグ……ッ!? ぐ、ぐはっ!?」
「ちょっと三郎、今度は何やねん!?」
「ひ、黄身が……黄身が喉に詰まって……水分が全部持っていかれた……ッ!!」
「バカじゃないの! 一口で食べるからでしょ!!」
美由紀が急いでお茶を注いで差し出し、三郎はゴクゴクとお茶を流し込んで胸を撫で下ろした。
「フーッた、た、助かった『来週もまた見てね〜ンガフッフ』のサザエさん状態やった。」
「たくもう……中身は62歳なんだから、少しは落ち着いてちょうだい」
お茶碗を片付けながら松田裕子が声をひそめて呆れ顔で呟く。
「でも、みんなでこうやって作って食べるのって、なんだかすごく楽しいわね」
「そうね。2026年じゃ、みんなバラバラでこんな風にワイワイご飯食べることなんてなかったもの」
美由紀も優しく頷く。62歳になった彼ら彼女らが失っていた「誰かと一緒に食べるご飯のあたたかさ」が、家庭科室いっぱいに満ちていた。
みんなで手分けして食器を洗い、シンクをピカピカに磨き上げた、その時――。
キーンコーンカーンコーン……。
四時間目の終わりを告げるチャイムが、校内に高らかに響き渡った。
「はーい、皆さん綺麗に片付きましたね! これで本日の授業は終了です。気を付けて帰りましょう!」
木村先生の爽やかな声に、教室中の児童から「はーい!」と元気な返声があがる。
昭和五十一年二月二十一日、土曜日。
午前中だけの授業「半ドン」が終わり、待ちに待った「週末の放課後」がやってきた――。