📖 前回のあらすじ
二時間目の算数。黒板に踊る巨大な木製定規に「あったあった!」と懐かしむ健一と宮本。しかし「62年生きてきて図形の証明が役に立ったことは一度もない」と本音の愚痴をこぼしていたところを大喜多先生に見つかり、黒板に指名されて冷や汗をかくのだった――。
【第26話】 熱々のゆで卵と、家庭科室の怪鳥音
三時間目、家庭科。
担任の大喜多先生から、家庭科専任の女性教諭・木村先生へとバトンタッチして調理実習が始まった。
今日の課題は、料理の基本中の基本――「ご飯」「お味噌汁」、そして「ゆで卵」だ。
「はーい、どの班も美味しくできるように、火加減に気をつけてね!」
木村先生の爽やかな声が響く中、第一班の宮本が気合十分に鍋を覗き込む。同じ班には俺、三郎、そして女子は佐藤美由紀と学級委員長の松田裕子がいた。
コトコトとお鍋でご飯とお味噌汁が炊き上がり、いい匂いが漂い始める。
それと同時に、壁の大きな時計を見上げていた松田裕子が「そろそろ十分経ったわね」と声をかけた。
ぐらぐらと煮立つお鍋から、お玉でゆで卵を引き上げる。
本来ならここでボウルにはった冷水につけて冷ますのが鉄則なのだが――大部屋役者の血が騒ぐ三郎は、何をトチ狂ったか熱湯から上がったばかりの卵に直接手を伸ばした。
「ふふふ……この熱気のなかにこそ、真の武道が宿るんや……!」
「ちょっと片山君、何やって――」
美由紀が止める間もなく、三郎は熱々のゆで卵を両手に乗せた。
「あちッ! あちちっ! あち、あち……っ!!」
あまりの熱さに、卵を右手に左手に高速でジャグリングのように移動させる三郎。その動きは徐々にカンフーの構えのようになっていく。
「あち……あち……あちょーっ!!」
勢い余って口から漏れ出たのは、往年のブルース・リーさながらのキレのある怪鳥音だった。
「ワチャァーッ! 熱いねんこれぇ!!」
「あははは! 三郎、お前それカンフーなんか熱いだけなんかどっちやねん!」
宮本が腹を抱えて爆笑し、俺も肩を揺らして笑う。
しかし、隣で腕を組んでいた美由紀の目がキラーンと光った。
「片山君!! ちゃんと冷水で冷まさないからそうでしょ!! 食べ物で遊ばないの!」
「ひぃっ、す、すまん佐藤さん……!」
怒られた三郎は慌てて卵を氷水のボウルへポチャンと落とした。冷ややかす美由紀の視線に小さくなりながら、冷えた卵の殻をむき始める。
湯気がふわりと上がる家庭科室。調理はいよいよ試食の時間を迎えようとしていた――。