📖 前回のあらすじ

土曜日の朝。車椅子になる前の母と再会した松田、亡くなる前の父と再会した水野の告白を聴きながら、片山三郎は心の中で強く誓っていた。3月20日、母と弟が出て行き家族がバラバラになる運命を、大部屋役者として培った演技力と12歳の身体で絶対に止めてみせる、と――。



【第23話】

昭和のカレーと、40人の約束


「なぁに、みんな大げさやな。お前ら顔が暗いぞ」

宮本がいつもの調子で、少し照れくさそうに頭を掻いた。

「俺んちなんて、玄関開けた瞬間からハウスバーモントカレーの匂いがプンプンしてよ。作業着の父ちゃんが『竜二、お帰り』ってビールを飲みながらガハハと笑うてて。久しぶりに食べた昭和のカレー、涙が出そうくらい美味かったわ」

宮本の言葉に、俺たちの中に少しだけ柔らかい笑いが戻った。

それぞれが、若き日の両親や、失われた昭和の景色への愛おしさを抱えている。だけど片山にとっては、これから起こる「家族の崩壊」という悲劇を止めるための、命がけのロスタイムなのだ。

「そうね……。みんな、それぞれ守りたいものがある」

松田が皆の顔を見回し、力強く頷いた。

「でも、招待状の条件を忘れないで。40人全員が、一人も欠けることなく揃っていないと、現代へは帰れない。この1ヶ月、全員で体調管理に気をつけて、無事に過ごして、それぞれの運命と戦いましょう」

まさにその時だった。

「健一、聞いてくれ!」

慌てた様子でクラスメイトの内田が教室に駆け込んできた。

「君、誰や?」

宮本が胡散臭そうな顔で聞く。

「内田や! 同じクラスやろ!」

「知らんなー。三郎、知ってる?」

「知らんな〜」

片山までしれっと首を振る。

「もうええ! 健一、今村直人知ってるやろ!」

「ああっ、三、四年の時同じクラスだった、タイガーマスク好きの奴?」

「そう! 同じ『直人』って名前だけで親近感持ってた、あの肥満児の直人や!」

「直人がどうかしたんか?」

「さっき廊下で呼び止められてな……『お前、昨日2026年の話をしてたよな』って言ってきたんや!」

健一、宮本、片山の顔色が一変する――。