📖 前回のあらすじ
土曜日の朝。12歳の教室で顔を合わせた健一たち。車椅子になる前のお母さんと再会した松田、2016年に亡くなる前の優しいお父さんと再会した水野。50年の時を超えた涙の告白を、普段はおちゃらける片山三郎が、真剣な遠くを見るような目で見つめていた――。
【第二十二話】
大部屋役者の誓いと、3月20日
(……おう。俺んちも、おかんも親父も弟も、全員揃っとったわ)
片山は心の中で、昨日帰った狭い団地の我が家の光景を、痛烈に思い出していた。
現代の2026年、片山は病院のベッドで末期がんに侵され、余命宣告を受けていた。ベッドの上で死を待つだけだった彼が、十二歳の動ける肉体を取り戻し、昨日、何十年ぶりかで我が家に帰ったのだ。
片山は、自分がなぜ売れない大部屋役者として六十二歳まで泥水をすすり続けてきたのか、その理由を噛み締めていた。
卒業式の後、おかんは親父と衝突し、弟を連れてタクシーでこの家を出ていってしまう。家族はバラバラになった。
片山がブルース・リーに憧れて役者の世界に飛び込んだのは、有名になって、いつかテレビに映る自分の元気な姿を、どこかで暮らすおかんや弟に見せてあげたかったからだ。たとえ一瞬の後ろ姿でも、エキストラでも、おかんなら気づいてくれるかもしれない――その健気な思いだけで、彼は過酷な役者人生を耐えてきたのだ。
(あと一ヶ月……。卒業式までのあと一ヶ月、俺の身体が動くうちに、絶対にこの家族をバラバラにさせへん。三月二十日、おかんがタクシーで出ていくのを、俺のこの十二歳の身体で、中身は大部屋役者の演技力で、絶対に止めてみせる。家族四人で、笑って卒業式を迎えるんや)
片山は口元をキュッと引き締め、心の中で強く誓っていた。
自分に与えられた「二度目の十二歳」という奇跡。
それはただ懐かしむためではなく、あの日の運命を塗り替えるために用意された舞台なのだと、片山は静かに確信していた――。