📖 前回のあらすじ
数軒隣の宮本家へ帰った竜二。豪快な父親と母が作る昭和の「黄色いハウスバーモントカレー」を囲み、秀樹のCMモノマネで笑い合いながら、竜二は二度目の12歳の温もりを噛み締めていた――。
【第18話】覚えている目
【平屋の市営住宅:水野薫の家】
トタン屋根の平屋が並ぶ市営住宅の一角。
水野薫は玄関の引き戸を開ける前に、何度も何度も深呼吸を繰り返した。
「ただいま……」
「お帰り、遅かったね。今日はクラブ活動だったの?」
奥の六畳間から、パタパタと小走りで出てきたお母さん。
そしてその奥の居間で、あぐらをかいて新聞を読んでいるお父さんの姿が見えた。
「お、帰ったか。薫、学校は楽しかったか?」
お父さんが新聞から顔を上げて、気さくに笑う。
その姿を見た瞬間、薫の目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
2012年に亡くなる前、認知症を患って娘の自分の顔さえ忘れてしまっていたお父さん。
そのお父さんが今は、しっかりとした目で、愛おしそうに自分を見つめている。
「あら、どうしたの? 泣いたりして。学校で男の子にいじめられた?」
お母さんが慌てて駆け寄ってくる。
「ううん、何でもないの。目にゴミが入っちゃって……。お父さん、お母さん、ただいま!」
薫は溢れる涙をグッと拭い、五十年の時を超えて、大好きな両親の胸に飛び込むような気持ちでとびきりの笑顔を作った――。