📖 前回のあらすじ

家へ帰った健一は、町工場の仕事から帰ってきた父親と50年ぶりに再会する。洗面所で『心のこり』を口ずさむ若い父親の姿と不器用な「お帰り」のやり取りに、健一は胸の奥を熱くさせるのだった――。


【第16話】五十年の時を超えた食卓


「ご飯できたよー! 冷めんうちに早く座って!」

台所からお袋の元気な声が響く。

その日の食卓は、気恥ずかしくも、どうしようもないほど愛おしい時間だった。

部屋の真ん中に置かれたちゃぶ台の上には、昭和の我が家の定番メニューが並んでいる。ガラスの醤油差しに、プラスチックの箸立て。ブラウン管のテレビからは、当時の懐かしいニュースや番組のモノラル音が流れていた。

中身は62歳のおっさんである俺が、40代の若い両親に挟まれて、12歳の子供としてご飯を食べている。

「健一、もっと肉食べな大きならへんで」

お袋がクジラの肉を俺の皿にポンと放り込み、親父はキリンのラガービールをコップにトクトクと注ぎながら、

「学校の勉強、ちゃんと言うこと聞いとるか?」

と笑いかけてくる。

ふと親父がブラウン管テレビに目をやり、ビールを一口あおった。

「おっ、今日は『太陽にほえろ!』があるな。今回は山さん主役の回やな」

「あら、ほんま? 私、山さん好きやわ。あの渋さがええのよ」

お袋が笑顔でそう返すと、親父は少し誇らしげにうなずく。

「俺はやっぱりボスやな。ゆうちゃんは、幾つになってもカッコええわ、ブラインドの隙間から外を眺める姿が男の哀愁を漂わせているよな」


楽しそうにテレビを見ながら会話を交わす二人。


――画面の向こうのボスも山さんも、そして目の前にいるこの二人も。現代ではみんな、もう鬼籍にいるんだよな。

未来のことは、絶対に喋ってはいけない。

2016年に二人がいなくなってからの、あの寂しかった現代の日常も、今はすべて遠い幻のようだった。

俺はただ、二人に怪しまれないように「うん」「まあな」と短い返事を返しながら、50年ぶりの、温かい家族の夕食を噛み締めていた――。