第四話 十二歳の再会
【前回までのあらすじ】
絶望の底にいた木暮健一の元に届いたのは、50年前の担任・大喜多先生の名前が書かれた『同窓会のご案内』だった。不気味な寒気と静寂の中、健一はそのまま意識を失ってしまい――。
冷たい。背中がやけに硬くて、底冷えがする。
「う、うう……」
呻き声を上げながら、俺はゆっくりと意識を取り戻した。
頭が割れるように痛い。あんなにビールを飲んだのだから当然だ。
しかし、何かがおかしい。
天王寺のマンションのリビングの絨毯に倒れ込んでいたはずなのに、手のひらに触れるのは、ザラザラとした埃っぽい「木の床」の感触だった。
そして、目を開けても、何も見えない。
街の明かりも、家電のLEDの光すらもない、文字通り一寸先も見えない「完全な暗闇」だった。
「……ここは、どこや?」
呟いた瞬間、自分の口から出た「高い声」に、俺はハッとした。
62歳のしゃがれた声ではない。あの頃の、ハスキーな12歳の少年の声だった。
衣服のポケットを探る。スマートフォンも財布もない。
あるのは、小学校の時に着ていた、あのクタクタの私服のポケットだけだった。
その時、暗闇のあちこちから、ガサゴソという衣擦れの音と、困惑する子供たちの声が聞こえてきた。
「痛っ……な、なんなんこれ……」
「真っ暗やん! 誰か電気つけてや!」
「誰や、俺の足踏んだ奴!」
男の子の、女の子の、無邪気で幼い声が、狭い空間に幾重にも響き渡って反響する。
声は紛れもなく12歳の子供たちのものだ。なのに、その会話の内容には、50年の人生を歩んできた大人としての記憶が混ざり合っていた。
「おい! もしかして宮本竜二か!? 片山三郎か!?」
俺は暗闇に向かって叫んだ。
「健一君…? 健一君なん!? あなたもここにおるん!」
「松田裕子! お前もか!」
お互いの姿は見えない。だが、その瑞々しい子供の声だけで、誰がどこにいるのかがハッキリとわかった。
ここにいるのは、あの無記名の手紙の通り、「6年3組」のクラスメイトたちだ。
その時だった。
ガチャリ。
暗闇の正面から、静まり返った空間に金属の擦れる音が鋭く響いた。ドアノブが回された音だ。
ギィィ……と重苦しい音を立てて、ドアがゆっくりと開いていく。
開いた隙間から、突き刺さるような、真っ白で強烈な太陽の光が容赦なく流れ込んでくる。50年分の暗闇に慣れていた俺たちの目に、まばゆい光の洪水が差し込んできた。
「うわっ……!」
全員が思わず両手で顔を覆い、痛む目を細める。
ドアがゆっくりと押し開けられ、埃の舞う狭い室内が白く照らし出されていくにつれ、俺は驚愕のあまり声を失った。
光の中に浮かび上がったのは、薄汚れたアディダスのTシャツに青い半ズボンを穿いた宮本、懐かしいオーバーオールを着た松田裕子、そして、あの頃いつも一緒に遊んでいた、40人の「12歳のクラスメイトたち」の姿だった。
「嘘やろ……みんな、あの頃のままや……!」
「ほんまに、1976年に戻ってきたんか……!?」
50年の歳月が一瞬で消え去り、自分たちが完全に小学生の姿で集まっている。
手紙に書かれていた「人生のロスタイム」という言葉の意味を理解し、室内が驚きと感動のどよめきに包まれた、その時だった。