数々の社会派作品で知られるオリバー・ストーン監督が自らの体験をもとにメガホンを取った『プラトーン PLATOON』。ベトナムの戦場から祖母にあてた主人公の手紙には、ストーン監督だけでなく、当時の多くのアメリカの人びとのベトナム戦争に対する思いが込められています。

 

<あらすじ> ※ネタバレ注意

 この映画は、大学を中退して陸軍に志願し1年の任期でベトナムにやって来たクリス・テイラーチャーリー・シーン Charlie Sheen 1965-)の目から見た戦争が描かれています。

 1967年、ベトナムに派兵されたクリスはあるプラトーン(小隊)の所属となり、カンボジアとの国境近くの南ベトナムのジャングルで敵と戦います。しかし待ち伏せにあったり夜襲を受けたりしているうちに、一人また一人と仲間が死んでいきます。そんなクリスの理解者は古参兵のエリアスウィレム・デフォー Willem Dafoe 1955-)で、彼はエリアスも楽しむドラッグパーティーに参加し、その間だけ現実から逃避します。

 そんな矢先、ある村に北ベトナム軍の大量の兵器が隠されていることがわかり、曹長のバーンズが村長を追及します。村長は北ベトナムの兵士が勝手に置いて行ったと説明しますが、バーンズは納得せず村長の妻を銃で殺した上、娘のこめかみに銃を突きつけ村長に本当のことを言えと脅します。エリアスはそれをやめさせ、民間人を殺害した罪で軍法会議にかけるとバーンズに告げます。

 エリアスを生かしておくわけにはいかないと決意したバーンズは、敵との闘いの最中に彼を撃ち殺し、エリアスを探しに来たクリスに敵に殺されたと嘘を言います。

 クリスはエリアスはバーンズに殺されたに違いないと考えます。仲間の兵士に彼を殺害しようと声をかけますが、逆にバーンズに組み敷かれ、あやうく殺されかけてしまいます。

 ある晩、クリスたちは敵に包囲され壊滅的な打撃を受けます。闘いの最中、バーンズがクリスを殺害しようとしますが、ちょうどその時、味方の飛行機から投下された爆弾が爆発し、二人とも吹き飛ばされてしまいます。翌朝、目覚めたクリスは瀕死の重傷を負ったバーンズが近くに倒れているのを見つけます。バーンズは衛生兵を呼ぶように頼みますが、クリスはバーンズを撃ち殺します。

 やがて援軍がやって来てクリスはヘリコプターに乗せられ、彼のベトナム戦争が終わります。

 

1986年のアメリカ映画

オリバー・ストーン監督(Oliver Stone 1946-)

アカデミー賞の作品賞、監督賞、編集賞、録音賞を受賞

 

 

<オリバー・ストーン監督>

 この映画は自らの体験をもとに、オリバー・ストーン監督が脚本も書きました。

 クリスと同じようにストーン監督は大学を中退して志願兵としてベトナム戦争に参加しました。除隊後に『タクシードライバー TAXI DRIVER(1976)(2021.1/10投稿)などの監督として知られるマーティン・スコセッシ(Martin Scorsese 1942-)から別の大学で映画製作の指導を受け、1978年の『ミッドナイト・エクスプレス MIDNIGHT EXPRESSでアカデミー脚本賞を受賞します。

 ベトナムでの体験が強烈だったからか、手がける作品はベトナム戦争をテーマにしたものなど、所謂、社会派の作品が多く、『プラトーン』と『7月4日に生まれて BORN ON THE FOURTH OF JULY(1989)でアカデミー監督賞を受賞しました。また『ウォール街 WALL STREET(1987)(2022.9/18)、『JFK』(1991)、『スノーデン SNOWDEN(2016)などの作品でも知られています。

 私は、ストーン監督は、これまで監督した映画からリベラル派と思っていましたが、そう単純な色分けはできないようです。最近読んだ『なぜメリル・ストリープはトランプに噛みつき、オリバー・ストーンは期待するのか』(藤えりか著 幻冬舎新書)の中で興味深い発言が紹介されています。

 ストーン監督は、トランプがヒラリー・クリントンを破った2016年の大統領選挙の後に著者からインタビューされた際、ヒラリーを「米国による新世界秩序を欲し、そのためには他国の体制を変えるのを良いと信じている」介入主義者とした上で、次のように述べています。

 (トランプが)米軍を撤退させて介入主義が弱まり、自国経済を機能させてインフラを改善させるならすばらしいことです。これまで米国は自国経済に対処せず、多くが貧困層です。自国民を大事にしていません。ある面では自由放任主義かと思えば、別の面では規制が過剰です。トランプもそう指摘しており、その点でも彼に賛成です。

 トランプはまともではないことも言います。かつてないくらいに雇用を増やすなんて、どうやったら成し遂げられるのかは私にはわからない。だがものすごい誇張だとしても、そこからよい部分をみいださねばなりません。少なくとも米国には新鮮なスタイルです。

 彼は、イラク戦争は膨大な資産の無駄だった、と明確に語っています。正しい意見です。第2次世界大戦以降すべての戦争がそうです。ベトナム戦争はとてつもない無駄でした。けれども、明らかに大手メディアはトランプを妨害したがっており、これには反対します。トランプがプラスの変化を起こせるように応援しようじゃありませんか。

 確かにアメリカ第一主義のトランプはアメリカにとって得にならないようなことはしようとせず、その意味では自由主義を守るために世界中に軍隊を派遣するといった発想はないのかもしれません。しかし一方で、ストーン監督も言っているように「まともではないことも言います」し、やってもしまいます。

 テレビ討論会でバイデン大統領が自らの衰えを有権者に見せてしまったこともあり、この秋の大統領選挙でのトランプの復活が現実味を帯びてきました。トランプをどう見ているのか、あらためてストーン監督の考えを知りたいものです。

 

                             オリバー・ストーン監督

                                       (Wikipediaより)

  

<クリスの手紙>

 この映画は、主人公のクリスが祖母にあてた手紙が物語の進行にあわせて彼自身の声で読まれます。手紙にはベトナム戦争に対するクリスの思いが綴られていて、それはストーン監督や当時の多くのアメリカ人のベトナム戦争に対する考えそのものだったと思います。

 抜粋して紹介します。

 

 ベトナムに来て間もないころに書いた手紙です。

理性の通じない所を地獄と言うなら ここがそういう所だ 来てから1週間でもうイヤになった ベトナムで死ぬなら 早い方がいいらしい 苦労が少なくてすむ 1年も続ける自信はない 来たのが間違いだった

 

 雨の中で野営するシーンで紹介される手紙。

出世なんかしたくない 名もない平凡人でいたい 国にも尽くしたい おじいさんやパパも従軍した だから僕も志願したんだ 一兵卒としてね 兵隊はたいてい地方出身で底辺の人たちだ せいぜいで高卒 地元に工員の口でもあればいい方だ 恵まれない彼らが国のために戦っている 縁の下の力持ちを自任してる 踏みつけにされてたくましくなってるんだ 彼らこそ真のアメリカ人だ 泥の中で悟ったような気がする これからの僕は 少しはまともな人間になれそうだ そのためにここで学ぶことは多いだろう

 

 雨の中で行軍するシーン。

こういう気候風土では体力を保つのが大変だ 疲れ切って手紙も書けない 善悪のケジメもつかない 除隊の日だけが楽しみだ

 

 救助されたヘリコプターの中で涙を流すシーン。

僕の戦争は終わった だけど思い出は一生残るだろう ともかく 生き残った僕らには義務がある 戦場で見たことを伝え 残された一生を 努力して 人生を意義あるものにすることだ

 

 いずれも短い手紙ですが、そのすべてから泥沼のような戦場やそこで戦う兵士の苦悩、そして国への思いや再生の誓いが伝わってきます。映画のテーマが浮かび上がって来るようです。

 

<すぐれた映画は生まれたけど・・・>

 ベトナム戦争は結果的にすぐれた映画を生みました。戦争そのものを描いた映画としては、今回取り上げた『プラトーン』や『ハンバーガー・ヒル HAMBURGER HILL(1987)、ベトナム帰還兵たちの狂気や苦悩を映画としては『タクシードライバー』や『7月4日に生まれて』などがあり、多くの作品がアカデミー賞を受賞しました。

 ベトナム戦争で命を落とした人の数は北ベトナムと南ベトナムの人たちが300万人、アメリカ兵が5万8,000人で、見方によっては、こうしたすぐれた作品は、これら多くの人たちの死によって初めて生まれたものと言えなくもありません。

 世界では今もウクライナやガザで戦争が続いています。その悲惨さを人々に伝えるためにも映画製作は必要なことだとは思います。しかしその一方で、作られる映画がすぐれていればいるほど、それは、一向に進歩しない、あるいは歴史から何も学ぼうとしない人間が生んだあだ花のようにも思えてしまうのです。

 

 

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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