日経平均株価が史上最高値を更新しバブルの再来かとも言われています。そのバブル時代は1986年から91年まで続いたとされますが、そのちょっと前に公開された映画が薬師丸ひろ子主演の『Wの悲劇』でした。

 フィルム映画の保存や公開に取り組んでいる国立映画アーカイブが、先日、私の職場のある川口SKIPシティでこの映画の上映会を開き、当時の雰囲気をもう一度味わってみようと足を運びました。

 

<『Wの悲劇』> ※ネタバレ注意

 1978年に『野生の証明』でデビューし、1981年の『セーラー服と機関銃』でトップアイドルの仲間入りした薬師丸ひろ子(1964-)が、大人の役者への新境地を開いた作品と言われています。

 物語を簡単に説明すると、「Wの悲劇」に出演する劇団の看板女優の羽鳥 翔(三田佳子 1941-)が不倫相手とホテルで情事を楽しんでいた時、相手が突然死します。羽鳥は「Wの悲劇」で共演するヒロイン役を三田静香薬師丸ひろ子 1964-)に交代させることを約束して彼女に身代わりになってもらいます。

 スキャンダルまみれになる静香ですが、初めてのヒロイン役を見事に演じ切って喝采をあびます。しかし、事情を知った前のヒロイン役が、役欲しさに不倫を肩代わりしたのは許せないなどと言って劇場の外で静香を襲います。静香に思いを寄せる森口昭夫(世良公則 1968-)がそこに現れ、彼女をかばってかわりにナイフで刺されてしまいます。

 傷の癒えた森口の仕事先を訪ねた静香は、自分には女優として生きていくしかないと改めて決意したと伝え、彼に別れを告げます。

 

澤井信一郎監督(1938-2021)

1984年公開

日本アカデミー賞の最優秀監督賞と最優秀助演女優賞(三田佳子)を受賞

 

 

<薬師丸ひろ子>

 『Wの悲劇』で主役を務めた薬師丸ひろ子は、1985年に角川春樹事務所を独立するまで、所謂、角川映画を活躍の舞台にしていました。具体的には、『野生の証明』(1978)『戦国自衛隊』(1979)『ねらわれた学園』(1981)『セーラー服と機関銃』(1981)『探偵物語』(1983)『里見八犬伝』(1983)『メインテーマ』(1984)、それに『Wの悲劇』です。このうち、『セーラー服と機関銃』『探偵物語』『メインテーマ』『Wの悲劇』では主題歌も歌い、ヒットさせました。

 途中、学業や結婚生活を優先させて休業する期間はありましたが、女優として歌手として息の長い活動を続け、2013年には放送ウーマン賞2013を受賞しています。

 個人的には、角川映画を別にすれば『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)でのやさしいおかあさん役とNHKの朝の連続テレビ小説『あまちゃん』(2013)でのちょっととぼけた女優の役が私は好きです。特に『あまちゃん』で歌った『潮騒のメモリー』は、その透き通る声が今も心に残っています。

 

 

<『Wの悲劇』の魅力>

 冒頭にも書きましたが日経平均株価が史上最高値を更新し、バブルの再来とも言われています。1986年から91年まで続いたバブル期、私は今のさいたま市と東京で記者として仕事をしていましたが、宮崎勤事件や雲仙・普賢岳の噴火災害の取材などで忙しく、バブルの恩恵にあずがった記憶は全くと言っていいほどありません。ただ、深夜、都心でタクシーを拾うのが大変だったことと、『Wの悲劇』でも出てくるようなソバージュヘアーに肩パットの女性たちが街を闊歩していたことは覚えています。

 その『Wの悲劇』の中で、世良公則演じる森口が「ばか野郎」と言って静香の頬を叩くシーンがあります。これに対して静香が言った「顔ぶたないで。私、女優なんだから」はこの映画を代表するセリフとなります。

 また羽鳥 翔のセリフにも印象的なものがあります。それは、不倫の代役が務まるか心配する静香に対して言った「できるわよ。あんた役者なんでしょ。違う?」というセリフです。また羽鳥 翔は、初めてのヒロイン役に緊張する静香に、自分は生理で血だらけになりながら舞台を務めたこともあるなどと言ってプロとしての覚悟を求めます。

 この映画は、薬師丸ひろ子の演技や彼女が歌う主題歌、それに夏木静子原作の『Wの悲劇』を劇中劇にした脚本の巧みさが評判になりましたが、私は、女優という仕事に人生をかける羽鳥 翔の生きざまにも魅力を感じます。

 ところで森口が静香の頬を叩くシーンですが、今、見るとかなりドキッとします。たとえ相手が妻や恋人であっても、今、同じことをやったらすぐにDV=ドメスティック・ヴァイオレンスと訴えられそうですが、映画が公開された当時、あのシーンが問題になったという話は聞いたことがありません。この映画が公開された1984年は昭和で言うと59年。昭和の時代は、ああした行為がまだ大目に見られていたんでしょうね。

 

<国立映画アーカイブ>

 『Wの悲劇』の上映会を企画したのは国立映画アーカイブという組織です。この組織は東京国立近代美術館などともに国立美術館の一つとして数えられ、映画の保存・研究・公開を通して映画文化の振興を図ることを目的としています。

 東京、京橋の地下一階地上7階建ての建物に上映会場や映画関連資料を集めた図書室などを持っています。実を言うと私はまだ行ったことがありませんが、ぜひ近いうちに一度訪れてみたいと思っています。

 その国立アーカイブが日本映画の紹介と映画保存への理解促進を目的に平成元年度から実施している事業が「優秀映画鑑賞推進事業」です。この事業では、昭和11年から平成23年にかけて製作された日本映画の中から映画史を代表する作品や多くの人びとより好評を得た作品を選んで、国立映画アーカイブ所蔵の35mmフィルムで全国で上映会を実施します。

 今年度も88本の映画が、全国47都道府県の103の会場で一つの会場につき4本づつ上映されました。ちなみにSKIPシティでは、2月23と24日の二日間、上映会が実施され、私は『Wの悲劇』のほかに、今を時めく西島秀俊(1971‐『ドライブ・マイ・カー』(2021)で全米批評家協会賞主演男優賞を受賞役所広司(1956‐『PERFECT DAYS』(2023)でカンヌ国際映画祭の主演男優賞を受賞が共演した『人間合格』(1999)を観ました。

 入場料は作品一本につき500円で、思わず名画座に通っていた昔を思い出しました。

 

<来年度の優秀映画鑑賞推進事業>

 今年度の事業は3月2日と3日に東京の調布と長野県の下諏訪で開かれた上映会を最後に終了しました。このうち調布では、川口のSKIPシティと同じ映画が上映され、下諏訪では『Shall we ダンス?』(1996)『がんばっていきまっしょい』(1998)『キツツキと雨』(2001)『死に花』(2004)の4本が上映されました。

 私はこの事業のことを知らなかったので2本の映画しか観ることができませんでしたが、東京だけでも五つの会場で上映会が実施されていたので、もっと早く知っていればさらに多くの作品を観ていたのにと、ちょっと悔やんでいます。

 国立映画アーカイブスのホームページを見ますと、来年度は今年度より12本多い100本の映画を7月から3月までの間に上映することになっていて、今、具体的な日程と場所を調整しているところです。

 上映予定が決まったらそれにあわせて各地を旅して映画を観たら楽しいだろうな。老後の楽しみがまた一つ増えました。

 

 

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。