アメリカのロサンゼルスを舞台にした『ラ・ラ・ランド』は、主人公のセブとミアの恋の行方を描くにあたってある映画を登場させています。ジェームズ・ディーン主演の『理由なき反抗』です。
今回のブログでは、アカデミー賞6部門を受賞した『ラ・ラ・ランド』の中にある『理由なき反抗』を見てみたいと思います。
<あらすじ> ※ネタバレ注意
はじめに『理由なき反抗 Rebel Without a Cause』(1955)を紹介すると、この映画はロサンゼルスの高校に転校してきたジム(ジェームズ・ディーン James Dean 1931-1955)の転校初日の不幸な出来事を描いています。
前の学校でトラブルを起こしたジムは、転校先のロサンゼルスの高校でも初日から不良仲間のリーダー、バズに喧嘩を売られます。二人は、断崖絶壁を目指して車を走らせ先に車から飛び降りた方が負けとなる「チキン・レース」で決着をつけることになりました。
ジムはぎりぎりのところで車から飛び降ります。しかし、バズはジャケットがドアの内側のレバーに引っ掛かってしまったため外に出ることができず、車ごと崖から転落して死んでしまいます。
ジムは両親に事故のことを打ち明けて警察に連絡しようとしますが、「お前ひとりが悪者になる必要はない」と言われます。二人に失望したジムは、バズの恋人だったジュディ(ナタリー・ウッド Natalie Wood 1938-1981)を誘い、グリフィス天文台近くの空き家に行きます。そこは同じ高校に通うプラトー(サル・ミネオ Sal Mineo 1939-1976)から教えてもらった場所でした。プラトーは両親が離婚したこともあって孤独な毎日を送っていました。
やがてプラトーもその空き家にやって来て二人と束の間の幸せな時間を過ごします。しかし、しばらくすると今度はバズの仲間だった不良たちもやって来て、一人で寝ていたプラトーを捕まえようとします。プラトーは家から持ってきた拳銃で一人を撃ち、駆け付けた警察官にも発砲します。
プラト―は近くの天文台に逃げ込み、ジムとジュディが助けに向かいます。ジムは拳銃から弾を抜き出して三人で外に出ますが、プラトーがまだ拳銃を持っていたため警察官が彼を射殺してしまいます。
1955年のアメリカ映画
ニコラス・レイ監督(Nicholas Ray 1911-1979)
<『理由なき反抗』と『ラ・ラ・ランド』>
冒頭で紹介したように『理由なき反抗』は、監督賞や主演女優賞など六つの部門でアカデミー賞を受賞した『ラ・ラ・ランド La La Land』(2016)(2021.1.29投稿)の中に登場し、監督が映画そのものやロケ地を効果的に使いながら主人公二人の恋の行方を描いています。紹介すると、
<二人がデートで観た映画>
セブ(ライアン・ゴズリング 1980-)が、「オーディションのリサーチのため」とミア(Emma Stone 1988-)を誘った映画が『理由なき反抗』でした。ミアは交際していたボーイフレンドとのデートを途中で抜け出してセブとの待ち合わせ場所の映画館にやって来ます。映画がすでに始まっていたため、彼女は上映中のスクリーンの前に立ってセブを探します。
<初めてのキスはグリフィス天文台>
映画を観ているうちになんとなくいい雰囲気になり、セブとミアが指を絡ませてキスをしようとします。すると突然、映画が途中で終わってしまいます。
ミアは「いい考えが」と言って、セブと一緒に車でグリフィス天文台に向かいます。この天文台は『理由なき反抗』の中でジムとバズがナイフを使って喧嘩をした場所で、最後にプラトーが警察官に射殺される場所でもあります。
天文台に着いたセブとミアはワルツに合わせて踊り始めます。そしてプラネタリウムが映し出す美しい星空をバックに宙を舞い、踊り終えた二人は初めてのキスを交わします。
<恋の終わりの予感>
セブとミアが『理由なき反抗』を観た映画館は、生活のためにセブがバンド活動を始めミアとすれ違いの生活を送るようになってからまた出てきます。ミアが運転していると左手に映画館が現れます。しかしその時はすでに閉館していて、2人の恋の終わりを予感させます。
<青春の終わり>
グリフィス天文台も最後にもう一度出てきます。オーディションを終えたミアはセブと一緒に天文台近くの公園までやって来ます。そして、気だるい雰囲気の中、二人で天文台を見上げながら昼間の景色はよくないとこぼし、これからについて話します。
映画では、この後、5年後の二人が登場します。オーディションに合格したミアは大女優になってセブ以外の男性と結婚し、女の子の母親になっています。ミアと別れたセブも、ロサンゼルスで念願のジャズクラブを開きます。
二人の恋は成就しなかったけど、それぞれの夢は実現したわけです。一方で、ここから先の人生は、自分たちの恋を美しい思い出として心にとどめながら、二人とも現実と向き合って生きていくしかないのだろうと思います。そんなふうに考えていくと、セブとミアがグリフィス天文台を見上げるシーンは、恋とともに二人の青春が終わろうとしていることを暗示しているのかなと思えてきます。
<映画に挿入される映画>
映画の中に他の映画が挿入される例はよくあります。私の場合、なぜかすぐに『グレムリン Gremlins』(1984)(2021.12.28投稿)を思い出します。グレムリンたちが『白雪姫 Snow White and the Seven Dwarts』(1937)を観ているうちにすっかりご機嫌になり小人たちの歌声に合わせて「ハイホー、ハイホー」と合唱するあのシーンです。
それ以外にも、『ボディガード The Bodyguard』(1992)(2023.6.10)は黒澤明監督の『用心棒』(1961)。『めぐり逢えたら Sleepless in Seattle』(1993)(2021.10.17)は『めぐり逢い An Affair to Remember』(1957)。それに『フェイブルマンズ The Fablemans』(2022)(2023.3.19)は『地上最大のショウ The Greatest Show on Earth』(1952)が思い浮かびます。
『グレムリン』の『白雪姫』はともかくとして、上に挙げた作品は濃淡はありますが、いずれもテーマに関係する映画を挿入しています。しかし、挿入する映画そのものやロケ地が物語の展開に大きく関わっているという意味では、『ラ・ラ・ランド』の中の『理由なき反抗』が一番ではないかと思います。
<名画が名画を生む>
『ラ・ラ・ランド』は、脚本もデイミアン・チャゼル監督(Damien Chazelle 1985-)が書いています。もし監督が『理由なき反抗』を観ていなかったら、はたして『ラ・ラ・ランド』は生まれていただろうかと思ってしまいます。またこうも思います。『ラ・ラ・ランド』は『理由なき反抗』へのチャゼル監督の限りないオマージュなのだとも。
『理由なき反抗』は、若者ゆえのやり場のない怒りや親への反発を描いた青春映画です。主人公の描き方がストレートなだけに、その分、ジェームズ・ディーンが出演した『エデンの東 East of Eden』(1955)(2021.4.1投稿)や『ジャイアンツ Giant』(1956)(2021.10.4)に比べると詩情という面ではやや物足りなさを感じてしまいますが、他の二本同様、やはりあの時代のアメリカを代表する映画であることは間違いありません。
一つの名画が別の名画を生む。『理由なき反抗』と『ラ・ラ・ランド』をあらためて観て、私はそう強く思いました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。