破滅願望って言葉があるかどうかわかりませんが、昔から私は、波乱万丈な人生を送って死んでいった小説家やミュージシャンに強く惹かれるところがあります。今回、取り上げる『ローズ The Rose』は、1960年代後半に活躍したロック歌手のジャニス・ジョプリンの生き方からインスピレーションを受けて製作された映画です。ジャニスがそうであったように主人公のローズもヘロインの過剰摂取で若くして命を落とします。

 初めて観たのは大学生の時で、忘れることのできない映画となりました。

 

<あらすじ> ※ネタバレ注意 

 この映画は、ロック歌手のローズベット・ミドラー Bette Midler 1945-) の死に至るまでの数日間、あるいは数か月間を描いています。時代はアメリカがベトナムで戦っていたころで、ローズはカウンターカルチャーの象徴として若者たちの人気を集めています。しかし、素顔の彼女はドラッグは断っているものの、孤独を癒すためもあって酒に依存する毎日を送り、暴言や乱暴を繰り返しては周囲とトラブルを起こします。

 故郷のフロリダでも、コンサートの前に立ち寄ったバーで恋人とトラブルになり、恋人は彼女を置いて去って行ってしまいます。傷心の彼女はバーの客からヘロインを譲り受け、寂しさのあまり、マネージャーが迎えに来てくれるまでの間に大量に摂取します。

 遅刻して会場に到着したローズは、ふらつきながらステージに上がり一曲歌います。しかし、二曲目を歌おうとしたところで突然倒れ、帰らぬ人となります。

 ローズのモデルはジャニス・ジョプリン(Janis Joplin 1943-1970とされていますが、彼女をそのままなぞっているわけではなく、ジャニスの生き方からインスピレーションを受けて製作された映画という言い方が正確だと思います。

 

マーク・ライデル監督(Mark Rydell 1934-)

1979年のアメリカ映画

 

 

<ベッド・ミドラー Bette Midler 1945-

 ハワイのホノルル出身で、舞台女優を目指してニューヨークに出て、はじめブロードウェイで活躍し、その後、活動の場を映画やテレビにも広げていきました。また歌手としても活躍し、『ローズ』の主題歌「ローズ」でグラミー賞を受賞するなど、これまでに3度グラミー賞の栄冠に輝いています。

 

 

 ちなみに『ローズ』ではアカデミー主演女優賞にノミネートされましたが、惜しくも受賞は逃しています。

 

<ジャニス・ジョプリン Janis Joplin 1943-1970

 製作者に『ローズ』製作のインスピレーションを与えたジャニス・ジョプリンは、1960年代後半に活躍したロックとブルースの女性シンガーです。60年代後半は、アメリカがベトナム戦争にのめり込んでいった時期で、反戦運動が各地の大学で繰り広げられ、ヒッピーに象徴されるカウンターカルチャーが若者に大きな影響を与えました。ジャニスはこの時代を駆け抜け、27歳の時にヘロインの過剰摂取で亡くなりました。

 今回のブログを書くにあたって、ジャニスの生涯を描いたドキュメンタリーの『ジャニス:リトル・ガール・ブルー JANIS LITTLE GIRL BLUE (2015)を観ました。

 ローズは南部のフロリダの出身という設定になっていますが、ジャニスもまた保守的な考え方の持ち主が多い南部のテキサスで生まれました。容姿について、たちの悪い嫌がらせを受けたこともあって大学を中退し、西海岸のサンフランシスコに向かいます。当時のサンフランシスコはカウンター―カルチャーのメッカでした。幼いころに教会で歌い、やがてブルースにも親しむようになっていたジャニスは、仲間とバンドを組んで音楽活動を始めます。そしてモントレー・ポップ・フェスティバルに出演して注目を集め、瞬く間に時代の寵児となっていきます。

 ベッド・ミドラーも『ローズ』の中でパワフルな歌声を披露していますが、ジャニスの歌声は魂の叫びそのもので、聴く者の心を揺さぶらずにはおきません。

 そんなジャニスですが、ステージを降りると孤独や不安を抱えていました。ハイな気分になりたくて酒やドラッグを大量に摂取し続けますが、心が完全に満たされることはありませんでした。特に痛々しかったのは、高校のクラス会に久しぶりに出席した後のジャニスで、癒しを求めて故郷に戻って来たはずなのに、かつての仲間はよそよそしく、かえって孤独を深めただけだったようです。

 レコードデビューしてから亡くなるまでの活動期間は、わずか3年しかありません。しかし、死後半世紀を超えた今も、ジャニスは20世紀を代表する女性シンガーとして人々の心に残り続けています。

 

 

<破滅願望。でも・・・> 

 小説家だったら太宰治。俳優だったらジェームズ・ディーン(2021.4/1投稿『エデンの東』。ミュージシャンだったらジャニス・ジョプリン、ビリー・ホリデイ(2021.12/5『BILLIE ビリー』)。画家だったらフィンセント・ファン・ゴッホ(2021.10/10 『永遠の門 ゴッホの見た未来』)。冒頭にも書いたように、昔から私は、破天荒な人生を送った末に自滅するように死んだいった芸術家に惹かれるところがあります。大学生の時に観た『ローズ』も強く心に残りました。

 なぜこういった人たちに惹かれるかというと、確かに表面上はめちゃくちゃな生活を送っていますが、その心は純粋そのものだと思うからです。逆に言うと、純粋すぎるがゆえに現実に馴染むことができず、自分を傷つけるような人生しか送ることができないのだろうと思います。

 もちろん人間は一人では生きていけません。まわりの人と協調して生きていくしかありません。それができない人間は、単にわがままな甘ったれなのかもしれません。でも私の場合、小説家やミュージシャンといった人たちに関しては、そう言って切り捨てるのではなく、むしろそこに純粋さを見ようとしてしまうのです。

 ではなぜ、自分もそういった人生を送らなかったかというと、答えは簡単です。クリエイティブな才能がない、あるいは乏しいと自覚しているからです。そんな自分が、まわりに迷惑をかけながら好き勝手ってやって、あげくの果てに若くして死んでいったら、「甘ったれの末路」と言われるのがオチだと思ってきたからです。

 波乱万丈な人生を送って他人に認めてもらうには、純粋な心に加えて、きらめくような才能がなければなりません。それがないと自覚している私は、悔しいけれどそうした人たちに嫉妬と羨望の気持ちを抱きながら、良き社会人として慎ましく生きていくしかありませんでした。久しぶりに『ローズ』を観て、私はそうやって生きてきた自分をあらためて振り返っています。

 

 

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。