今年のアカデミー賞授与式でプレゼンターを平手打ちしたウィル・スミス(Will Smith)は、『ドリームプラン』でテニスのヴィーナスとセリーナ姉妹を育てた父親を演じ主演男優賞を獲得しました。この映画の原題は『King Richard』ですが、以前、ウィルのカウンセリングを担当した心理学者は、彼のある一面をとらえてGeneral(将官)と呼んだそうです。


<『ドリームプラン』> ※ネタバレ注意

 この映画の主人公は、女子テニス界のレジェンド、ヴィーナスとセリーナのウィリアムズ姉妹を育てた父親、リチャードす。原題は『King Richard』ウィル・スミス(Will Smith 1968-)は、このリチャードを演じています。

 リチャードにはテニスの経験はありませんでしたが、1977年にテニストーナメントで優勝したルーマニアの女子選手が40,000ドルの賞金を手にするのをテレビで見て、生まれて来る娘をプロのテニスプレイヤーにしようと決心します。そのためのプランを78ページの計画書にまとめ、ヴィーナス(1980-)とセリーナ(1981-)が生まれると、妻と一緒に実行に移します。邦題の『ドリームプラン』は、この計画書のことを指しています。

 しかし、テニス経験のないリチャードと妻の指導だけでは限界があります。リチャードは強引とも言えるやり方で二人の娘にプロのコーチを付け、一家でカリフォルニアからフロリダに引っ越します。

 プロのコーチが付いた後も、リチャードは自分が作った計画書にこだわります。若くして燃え尽きてしまわないようにするため、コーチの反対を押し切ってヴィーナスには3年間ジュニアの大会に出場させませんでした。

 ヴィーナスは、願いがかなって14歳の時に大会に出場してプロデビューします。その大会で、当時、世界一位だったスペインのアランチャ・サンチェス・ビカリオに惜敗しますが、会場に詰めかけたテニスファンたちは、ヴィーナスの戦いぶりを見て次のスターの誕生を予感します。

 

レイナルド・マーカス・グリーン監督(Reinaldo Marcus Green 1981-)

2021年のアメリカ映画

ウィル・スミスがアカデミー主演男優賞を受賞

 

 

 

<ウィリアムズ姉妹>

 姉のヴィーナスは、ウィンブルドン5回、全米オープン2回とグランドスラム大会で7回優勝。

 グランドスラム大会を制覇したのは妹のセリーナの方が早く、1999年に全米に優勝。彼女は、これまでに全豪オープン7回、全仏オープン3回、ウィンブルドン7回、全米6回と23回もの優勝を誇ります。大阪なおみが、2018年に全米で優勝した時の決勝戦の相手がセリーナでした。

 ヴィーナス、セリーナとも40歳を超えた今もツアープロとして活躍しています。まさにテニス界の生きるレジェンドです。

 

<ウィル・スミス Will Smith 1968-

 元々ラッパーとして活躍し、グラミー賞も受賞しています。俳優としては、まずテレビでキャリアをスタートさせ、その後、映画に活躍の場を広げます。

 プロボクサーのモハメッド・アリを演じた『ALI アリ 2001『幸せのちから The Pursuit of Happyness 2006で、二回、アカデミー主演男優賞にノミネートされましたが受賞には至りませんでした。

 実は私は、ウィル・スミスの映画はあまり観たことがなく、今回の『ドリームプラン』以外に観たのは『アラジン Aladdin 2019だけでした。この映画で、彼はランプの魔人ジーニーを演じ、そのコミカルな演技で観客を大いに楽しませてくれました。

 

<平手打ち事件>

 そのウィル・スミスが、初のアカデミー主演男優賞に輝いたのが『ドリームプラン』のリチャード役でした。

 主演男優賞は授与式の最後の方で発表され、ノミネートされていたウィル・スミスは、妻のジェイダ・ピンケット・スミスとともに会場で発表を待っていました。事件は、長編ドキュメンタリー賞の発表の際に起きました。プレゼンターでスタンダップコメディアンのクリス・ロックが、式を盛り上げようと会場にいるセレブたちをネタにジョークを飛ばし、ジェイダさんが髪を短くしていることから、「『G.I.ジェーン G.I.Janeの続編を期待している」と声をかけたのです。

 『G.I.ジェーン』は1997年に公開された映画で、海軍特殊部隊の訓練に参加したデミ・ムーア(Demi Moore 1962-)演じる女性将校が髪の毛を丸刈りにするシーンが有名です。

 ただジェイダさんは自らの意思で髪の毛を短くしたのではなく、脱毛症のため仕方なく短髪にしていたということで、去年、そのことを公表していました。

 クリス・ロックのジョークを妻への侮辱と受け取ったウィル・スミスは、ロックに強烈な平手打ちを食らわせ、席に戻った後も、妻の名前を口にするなと大声をあげました。授与式は、アメリカをはじめ世界中に生中継されていただけに大きな騒動になりました。

 

 

<General Will>

 この事件については、世界中で色々な人が書いたり話したりしているので、私の考えをくどくど書くことはいたしませんが、やはり、たとえ妻の名誉を守るためとはいえ暴力をふるったことはまずかったと思います。ジェイダさんの容姿をネタに笑いを取ろうとしたクリス・ロックにも問題があったという意見もありますが、クリスはジェイダの脱毛症を知らなかったという説もあります。いずれにせよ、アカデミー賞の授与式という晴れやかな舞台に水を差し、とりわけほかの出席者に迷惑をかけてしまったという意味で、ウィル・スミスの振る舞いは非難されるべきだと思います。

 最近、ロサンゼルス在住の映画ジャーナリストの猿渡由紀さんが、東洋経済ONLINEに書いた記事を読みました。それによりますと、ウィル・スミスは、子育てや家の購入など生活の様々な場面で妻の意見を聞かずに自分の考えを押し通してきたということです。彼のカウンセリングを担当した心理学者は、ウィルに対して、「あなたの中に二人のウィルが存在する。1人は、誰にでも優しく明るいウィル。もう一人は暗く、厳しいウィル」と伝え、後者のウィルのことをGeneral(将官)と呼んだそうです。

 

 

 この記事を読んで思ったのは、それってリチャードと同じじゃないかということです。映画にもあるようにリチャードは、自分の立てた計画に固執するあまり周囲と摩擦を起こすことが多かったということです。映画のタイトルにもなった『King Richard』は、実は、そうした彼に付けられたあだ名でした。

 ウィル・スミスは、この映画で念願のアカデミー主演男優賞を受賞したわけですが、General Willが自分と性格のよく似たKing Richardを演じたと考えると、さほど苦労せずに、ごくごく自然に演技ができたのではないかと思ってしまいます。

 

<そして今後は> 

 事件の後、ウィル・スミスはアカデミー賞を主宰する映画芸術科学アカデミーを自ら退会しました。またアカデミーは、今後10年間、アカデミー主催のイベントへの出入りを禁止するペナルティを彼に与えました。

 最近、インドに瞑想の旅に出かけたという情報もありますが、ウィルは、関係者への謝罪やアカデミーからの退会をSNSに投稿した以外、公式の場には姿を見せていません。今回の平手打ち事件は、ウィルに高い代償を払わせるることになりました。

 今回の事件は、ウィルが短気を起こし、前後の見境をなくしたために起きたものですが、そこには彼の中にあるGeneral・将官的な部分も影響しているのかもしれません。妻のジェイダは事件の後、「今は癒しの季節。私はそのためにここにいるのです。」とSNSに投稿しました。再起を願う世界中のファンのためにも、ウィルは、ジェイダの癒しを糧としながら、静かに自分と向き合っていく必要があるのかもしれません。

 

 と、ここまでを読み返してみたんですが、将官的な部分はないにしても、私も「短気を起こし、前後の見境をなくす」ことはたまにあり、アルコールが入るとその傾向が強くなるような気がしております。ということで、ウィルのことを偉そうに批判するのではなく、今回の事件を他人ごとと考えずに自らを律していくことが肝心、と思っている次第であります。ハイ(笑)。

 

 

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 次の私のブログを気にしている人はほとんどいらっしゃらないかもしれませんが、一応、お伝えしておきます。

 20日から沖縄、松山に旅行するため、次回の投稿は24日以降になります。悪しからずご了承ください。